今日はこの話題をごく簡単に…



11月10日、第二次安倍政権下では初となる日中首脳会談が行われた。会談の内容は外務省のサイトで公開されているけれど、安倍総理が踏み込んだ内容はないながらも10項目について発言したのに対して、習主席は4つだけ。

しかもそのうち2つは、様々なレベルで徐々に関係改善したいだの、事務レベルで意思疎通を継続したいだの、既に事務方に投げたような内容だし、残り2つのうち1つは、従来の4つの政治文書の踏襲と今回の4項目の一致点について触れ、日中関係を発展させていきたいと、事前協議で殆ど終わっている話。

最後の1つで「中国の平和的発展はチャンスだという日本側の発言を重視している。日本には、歴史を鑑とし、引き続き平和国家の道を歩んでほしい」と述べた。

つまり、首脳会談で、中国が首脳としての発言をしたのはこれしかなかった訳で、本当の首脳会談の中身は、7日に発表された合意文書だといっていい。だから、10日の首脳会談は、形式上と言えば言い過ぎなのかもしれないけれど、最後の締めというか象徴的な意味合いが強いと思われる。

巷では、今回の首脳会談はお互い会っただけで意味があると言われているけれど、この外務省の発表を見る限り、その通りだと思う。

今回の4項目の合意文書(日中関係の改善に向けた話合い)の概要は次のとおり。
1.双方は日中間の四つの基本文書の諸原則と精神を遵守し、日中の戦略的互恵関係を引き続き発展させていくことを確認した。

2.双方は、歴史を直視し未来に向かうという精神に従い両国関係に影響する政治的困難を克服することで若干の認識の一致をみた。

3.双方は,尖閣諸島等東シナ海の海域において近年緊張状態が生じていることについて異なる見解を有していると認識し、対話と協議を通じて、情勢の悪化を防ぐとともに、危機管理メカニズムを構築し,不測の事態の発生を回避することで意見の一致をみた。

4.双方は、様々な多国間・二国間のチャンネルを活用して、政治・外交・安保対話を徐々に再開し、政治的相互信頼関係の構築に努めることにつき意見の一致をみた。
この合意文書の言い回しその他については、既に色んな方が論評を加えているから、改めていうことはないけれど、筆者の見解はこちらのブログの意見に近く、日中が互いに都合の良いように解釈できるような文言に仕立て上げたという印象は否めない。ただ、尖閣と靖国の文言を入れさせなかったことは頑張ったのかな、とは思う。

何でも、政府高官によると、日中の合意文書の作成過程で中国側は総理が靖国神社に参拝しないと盛り込むことに固執したらしいのだけれど、日本側は首脳会談の見送りも構わないと撥ね付け、最終的に中国が折れたのだそうだ。

安倍総理は「会談はお願いしてまでやることではない」と周辺に話していたそうで、それを貫いたのが今回の結果に繋がったことはいうまでもない。

また、ネット界隈では、安倍、習両者が握手したシーンで表情が硬かったことを取り上げているところもちらほらある。その模様の動画を見る限り、筆者は、かつて小泉総理が訪朝して金正日総書記と会ったときのような緊張感めいたものを感じた。

確かに、プーチン大統領との日ロ首脳会談での安倍総理の表情とは全然違う。この辺りについては、こちらのブログで述べられていることに同意する。

今回、日本が尖閣・靖国の文言を入れさせず、中国に折れさせる形で日中首脳会談が実現したのは、勿論、先ほど述べたように日本が強気で交渉に臨んだ、ということもあるのだけれど、その前提として強気に出てもよいように、前々から戦略的に動いていたことは忘れてはいけないと思う。

安倍総理は常々、対話の扉はオープンだと言い続けながら、地球儀外交を展開し、多くの国を味方につけていった。中国の歴史認識発言や靖国発言についても、国際会議で何度も、今の日本が世界に貢献している平和国家であり、国の為に命を捧げた方を祀るのは世界共通のことだと説明しては、世界の側に立つよう努めていた。

加えて、「法の支配」という今の世界正義を抱え、世界観においての急所も抑えていった。一か八かの勝負ではなく、不敗の地に立ちつつ着実に歩を進め、2年近くも掛けて戦略的に足場を固めていった。

今回中国が首脳会談に応じたのは、APECの舞台で関係改善に乗り出す姿勢を国際社会に見せる必要があったと指摘されているけれど、そうした状況を作り出したのは安倍総理の外交戦略によるところが大きい。いわばその集大成が今回の日中首脳会談となって表れたように思う。

更に付け加えるならば、安倍総理は、今回のAPECでインドネシアのジョコ新大統領と初会談し「海における法の支配の3原則」で一致していて、じわじわと中国に圧力を掛けている。

やはり戦略の最上位階層から抑えていると強い。

ただ、今回のようなやり方で上手くいくためには、自身がそれなりの国力を持っていないと難しい。尖閣にしても、先日の小笠原にしても、中国の仕掛けを跳ね返し取り締まれるだけのものを持っていないと、突っぱねるものも突っぱれなくなってしまう。

2年もの間、中国と没交渉でも特に大きな問題がなかったのは、日本にそれなりの国力があったから。これが仮に中国との国力差が10:1くらいだったとしたら、中国は好き勝手やってくることが十分考えられる。

現に中国は、スプラトリー諸島で、ベトナムなどと領有権を争うファイアリークロス礁に運び込んで埋め立てて滑走路を作ったりしているけれど、日本との間に大きな国力差があれば、同じ事を尖閣についてもやると思う。

今は、海保が頑張ってくれているからそうならないだけで、もしも、日本の国力が落ちて海保の予算もつかず、尖閣をパトロールできなくなったら、あっという間に中国に実効支配される危険がある。

まぁ、日米同盟がしっかりしている間は、そう単純にはいかないだろうけれど、交渉力の裏には、国力と抑止力の裏付けがあってこそ成立することを忘れてはいけないと思う。


コメント

 コメント一覧 (3)

    • 1. 日中首脳会談も面白いが,
    • 2014年11月12日 13:18
    • 消費税増の延期と解散総選挙で吹き飛んだ.
      安倍晋三は策士である.
      良い意味でも悪い意味でも.
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    • 2. opera
    • 2014年11月13日 07:24
    •  現在の日中関係は事実上の冷戦状態にあるという現実を直視すれば、外交交渉による関係改善には限界があるということが理解できるはずです。
       以前もコメントしましたが、日本が「尖閣には領土問題は存在しない」と明確に宣言した時点で、中国は(少なくとも自らが望む形の)外交的解決の手段を失いました。中国に尖閣領有について正当な根拠があれば別ですが、そうでない以上、中国が一方的に主張していた領土問題棚上げ論(個別の政治家の真偽不明な合意ではなく、外交文書や政府・要人の公式声明レベルの話)を日本側が明確に否定しないという状況があって初めて、外交問題化していただけだからです。
       中国が現状を打開するには実力行使しか残されていませんが、軍を動かせば熱戦に発展するだけでなく日本単独でもほとんど勝ち目がないという状況では、あの手この手で他の方法を模索するとともに、できれば棚上げ論に戻したいと考えているでしょう。この意味で、小笠原沖での珊瑚密漁騒動は、APECでの日中交渉に圧力を加えるだけでなく、尖閣侵略のシミュレーションだったのかもしれません。ただし、たぶんこのことは日本側も百も承知で、船団の構成や連絡網等の情報収集を行ないつつ、いかなる事情が有ろうと上陸は一切認めず、上陸即逮捕の体制を取ったのだろうと思います。また、即座に海上警備強化の方針も打ち出しました。
       基本的に日本は、怠りなく防衛力を増強していくと同時に中国の不法行為は断固認めないという国際環境を整えていけばいいだけですが、不測の事態に対する対応は必要です。
       このように考えてくると、日中首脳会談の結果は、日本から見てほぼ満点の内容と言っていいのではないでしょうか。
       日本のマスコミや経済界は、外交交渉によって日中関係が劇的に改善することは無いという現状を正しく認識すべきでしょうね。
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    • 3. opera
    • 2014年11月13日 07:52
    •  観測気球なのか内部批判なのかは判然としませんが、以下のような本が出版されているようです。
      「釣魚島は核心的利益ではない」人民解放軍元中佐が中国の反日政策を批判!―李東雷著『中日対話か?対抗か?』
      http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20141013-00000013-rcdc-cn
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