今日はこの話題です。



先日、「麻生の腹芸と最後の勝者」のエントリーで、麻生財務相は財務省よりの発言は財務省を完全敵対させないための"腹芸"ではないかと述べたけれど、以前紹介したこちらの「88047」ブログの方も同じ趣旨を述べている。

今日のエントリーの本題はそれではなくて、このブログの方がこちらの記事で、財務省を叩きのめす方法はないのか、と述べられていたので、少しこれについて考えてみたい。

今回の財務省の"政界工作"問題については、ネットでもあちこちで取り上げられているように思う。例えば、こちらのブログ「蘭月のせいじけーざい研究室」でも、「なぜ財務省の権力は大きいのか」という疑問について、その権力の源泉には「マルサ」があるとし、「マルサ」を財務省から切り離さない限り彼らの横暴は止まらないと述べている。

これには筆者も同意するけれど、それも含めて、財務省の横暴を食い止める方法は果たしてあるのかどうかについて検討してみたい。

まず、財務省の力の源泉を考えてみると、やはり、「蘭月のせいじけーざい研究室」殿が指摘するように、予算編成権と微税権にある。

金を集めて、予算を付ける。この単純ながら、金の出入りの権限を持っていることがその源泉にある。「蘭月のせいじけーざい研究室」殿は、予算編成権についてはそうそう無茶できないことから、「マルサ」、即ち微税権こそが最大の力の源泉であると述べているけれど、筆者は予算編成権もそれなりに力の源泉になっていると思う。

予算編成権はいうまでもなく、各省庁の予算枠を設定していく権利だけれど、例えばある議員に支援者から何某かの"陳情"があったとして、それを実行しようとすると、大なり小なり金がかかるもの。その"陳情"は、農水省管轄のものだったり、経産省管轄のものだったり色々だけれど、それを実行するための予算は財務省が握ってる。だから、陳情案件を持っている議員の耳元で「増税に賛成して戴けるのであれば、あの案件の予算を付けますよ」なんて囁けば、ころっといってしまう可能性は否定できない。

事実、今回の消費増税を巡って、財務省は自民党の増税延期派議員にそういう工作をしていたし、自民党の山本幸三議員が会長を務めていた「アベノミクスを成功させる会」も当初45人参加していた議員が、10人そこそこまで切り崩された という話もある。

これは、予算編成権とて使い方次第で強力な武器になるという証左。またもう一方の「マルサ」による脅しについては指摘するまでもないだろう。

つまり、財務省は予算編成権と微税権という「飴と鞭」によって、マスコミ始め、議員までもコントロールできるだけの力を持っているということであり、逆にいえば、この「飴と鞭」を弱めることができるかどうかが彼らの横暴を防ぐ鍵だということになる。

権力の横暴を防ぐにはいくつかの方法があるけれど、大きく分けるならば、筆者は3つあると思う。それは次のとおり。
1.権力の横暴に対するブレーキを用意する
2.権力行使の目的をコントロールする
3.権力を縮小または無効化する
1は、平たくいえば「罰則」を設けること。権力の横暴に対して何のペナルティもなければ、それを咎める手段はない。ちょっと性悪説的な言い方になるけれど、それこそやりたい放題できてしまう。だから、それに対する罰則なり、第三者からの審判を受けるようにすれば、権力の横暴に対するブレーキになる可能性がある。

例えば、前年度比でGDPが下がるとか税収が減ったりしたら、財務事務次官は首となって、新しい事務次官を任命するようにするとか、最高裁判所裁判官の国民審査投票のように、国政選挙の際に、その時の財務事務次官の国民審査をして、「×」が過半数を超えたら、退官させられるとか。

ただ、これは、財務省に景気に対する責任を負わせるということであり、本来政治家が負うべきものを財務省に負わせるという意味で本道ではない。たとえ国民感情としてそうしたくても、実際には難しいのではないかと思う。

あとは、そこまでいかなくても、マスコミが政治家に対していつもしているような世論調査を財務官僚に対して行うという手も考えられる。たとえば、今の財務事務次官を支持するかしないかとか、彼の発言を取り上げてどう思うかなどの世論調査を定期的に行って発表する。その結果が余りにも酷ければ、政治家とて座視する訳にもいかず、何らかの措置をせざるを得なくなる。また財務官僚にしても、いつも国民に監視されているとなれば、緊張感も出てくる。少なくとも、どこぞの幹部が言ったという「国民を甘やかす」なんて発言はしなくなるだろう。

2は、権力は行使させてもいいけれど、その目的をコントロールするやり方。今回の消費増税を巡る財務省の目的は明らかに「増税すること」であって「税収を上げること」ではない。だから、増税することよりも「税収を上げること」にインセンティブが働くような仕組みにするという手がある。これは1の罰則とも似ているけれど、例えば、GDPが前年度比プラスになったり、税収が増えれば出世するとか、事務次官の任期が伸びるとか、景気と出世を連動させることで、増税が目的ではなく、税収増が目的となるよう、その権力行使の方向性をコントロールする。少なくとも、増税したら出世するなんて風潮が財務省にあるとしたら、そこを変えていく必要がある。

また、政治家が、財務官僚を心服させる或は、頭が上がらなくさせることでコントロールする方法も考えられる。もう故人だけれど、かつて自民党には山中貞則という人物がいた。彼は「税調の神様」といわれ、「あらゆる大蔵官僚よりも遥かに税制に精通していた」と当時を知る自民党代議士や元大蔵官僚は口を揃える程だったという。

山中貞則は1979年に税調会長に就任して以降は、税制に関する一切の陳情及び取材を受付けなかった。それゆえ、自身の選挙区の主要産業であった葉タバコや焼酎の増税案を通過させたり、肉用牛に関する所得税の時限の免税特例措置を導入させたりしている。

だから、仮に、政府与党の面々が山中貞則並の知識と陳情を一切受け付けない信条を持っていたとしたら、いくら財務官僚が増税の"御説明"に伺ったところで、けんもほろろに追い返されるに違いない。

要するに、財務官僚以上の知識を持てば、財務省の工作は効かず、逆に彼らをコントロールできるようになる土俵に立てるということなのだけれど、これを全ての政治家に求めるのは非常に困難だろうと思われる。

3は、これまで述べてきた財務省が持っている権限の制限或は剥奪。財務省から国税庁を切り離すなんてのがそう。

民主党は2009年の選挙マニフェストで、税と社会保険料を一元的に徴収する「歳入庁」を設置する歳入庁構想を掲げ、2012年に民主党のワーキングチームが中間報告で、日本年金機構(旧社会保険庁)の保険料徴収部門を分割し、国税庁に統合し、将来的に介護保険料や雇用保険料徴収の移管検討を報告していたけれど、いずれも失敗している。

その理由として、自身の権限を減少させることになる国税庁の切り離しに財務省が抵抗したからだ、という説があるのだけれど、それ以外にも、旧社保庁には、自治体業務と人員を吸収した経緯から、地方事務所を中心に、自治労加盟労組が強く、彼ら左派職員を徴税にかかわらせることは、国税庁からの反発が大きかったという事情もあるようだ。

自民党の谷垣幹事長も当時、「(旧社保庁は)モラルが低かった。税を集める機能がガタガタになる」と歳入庁に反対する発言をしていた。

また、もっと進めて権力そのものを無効化するならば、最初から財務省を頼らない方法も考えられる。例えば、官邸ないしは政治家が、予算編成を全部できるくらいの専門スタッフを抱え、予算編成から何から全部させるという具合に官邸ないしは政治家付のスタッフで全てを賄わせるという方法も理屈としてはある。ただこれは、別の財務省をもう一つ起こすことと同義であり非効率極まりないのは当然ながら、それ用の予算というか金を用意しないといけなくなる。大量の専門スタッフを抱えるために、政治家の給与をうんと引き上げることになる可能性もあり、世論の理解を得るのも大変になると思われる。

こうしてみてくると、財務省の権力を衰えさせるのは簡単なことでなく、現実的かつ有効的な方法は難しいという印象を持った。ただ一つ言えることは、政治家が官僚を使うという本来あるべき姿が特に財務省に対して殆ど失われているということであり、その意味では、かつての"族議員"と呼ばれた存在が小泉内閣以降弱体化したことも影響しているかもしれない。

現時点では打てる手は限られているというのが実情ではあるけれど、それだけに官僚をしっかりとグリップしてコントロールできる政治家は貴重であるし、国民もそうしたことを知り、声を上げていくことが必要になってくるのかもしれない。
 

コメント

 コメント一覧 (5)

    • 1. ミモロン
    • 2014年11月24日 09:16
    • 「お金が集中する場に、情報力も影響力も集中する」というのは、古今東西の常ですね(汗)。
      一般論になってしまいますが、政治とは、「如何に『一極集中の独裁』状態を防ぐか」という事に苦心してきた歴史…とも言えるのかも知れません(三権分立とか)。
      卓越したスーパー政治家(コントロール役)が居なくても、バランスよく回るという仕組みを考案した方が、効率的で、かつ、後々のためかも…とは思うものの、実際には、やはり、なかなか難しい事だと思います。
      また、財務省にも、財務省なりの正義と論理(主張)がある筈です。
      大変な金額が関わる以上、全ての情報を赤裸々に公開すると言うのも、国家レベルでの情報セキュリティ上の問題がありそうですが…
      個別の「秘密の説得工作」とかでは無くて、或る程度の広報を含めて、財務省官僚の直接の代表を立てて、国会レベルでの、後世の記録に残す形での公開討論とか、パブリックな対話シーンが増えれば良いかも…という風に思いました(既にそういう場はあるのかも知れませんが、不案内なもので・汗)
    • 0
      kotobukibune_bot

      kotobukibune_bo

      t

      likedしました

      liked
    • 2. ちび・むぎ・みみ・はな
    • 2014年11月24日 13:10
    • ゲーツ国防長官の回想録を読んでいると国防予算編成に
      おける予算配分をどうするかの話が頻繁に出てくる.
      やはり政権側には各部門における予算編成能力が必要なのだろう.
      勿論, 全てを政権側で行なうことは無理だから官僚との
      協力が必要だ. 従って, 官僚の人事評価を政権側の
      責任者が付けるようにするしかないだろう.
      しかし, 人事評価は官僚側の譲れない権益である.
      この壁を乗り越えるには政権側と国民の連携が必要だが,
      シナ様の○HKや真っ赤な(嘘の)新聞が幅を効かせている状況では
      情報の分断工作の脅威がある.
      結局, シナ様のN○Kや真っ赤な嘘つき新聞を何とかしていく
      ことが長い目で見れば政治を国民にとり戻す道になるだろう.
      自民党は広報活動をもっと見直さなければならない.
    • 0
      kotobukibune_bot

      kotobukibune_bo

      t

      likedしました

      liked
    • 3. sakuragawa
    • 2014年11月24日 13:22
    • 仮に頭の良い職員ならどうするかと言えば、利権を追及しながらも国家運営は上手くやるでしょう。となれば、今回のような騒動など起しません。
      官僚はモラルも能力も欠けるのが妥当な評価でしょう。
      必要な運営機能その他を残して全て外注。残った運営事務機能は各省統一してしまうのが良いと思います。
      法律作成、集計、統計、各シュミレート等、外部にシンクタンク等の法人を起して転籍、のち数年で民営化し競合させてしまう。地方も合わせて。
      官僚公務員には厳しいですが、ごく一部の例外を除けば民間の能力に適いません。
      分析や案がまともなら、正しい選択ぐらいはまともな政治家ならできるでしょう。
      そして日本の国力から言えば世界的影響力も大きいですから、国民のみならず世界に迷惑を掛ける今の官僚システムの変更は必須の課題でしょうね。
    • 0
      kotobukibune_bot

      kotobukibune_bo

      t

      likedしました

      liked
    • 4. 泣き虫ウンモ
    • 2014年11月24日 22:36
    • 解決方法は、直接民主制しかないかと。
      ○○省を黙らせるには、民意が一番かと。
      憲法に保護されているのであれば、変えるのは難しいかなぁと。
      別な方法は、政治的な天才を待つしかないが危険だと思うが。
      自分の首を絞める人は、官僚や政治家でもいないと思うので、憲法に保証されているところに関しては期待しないほうがよいでしょうね。
    • 0
      kotobukibune_bot

      kotobukibune_bo

      t

      likedしました

      liked
    • 5. 雪風
    • 2014年11月28日 23:13
    • 財務省設置法を議員立法で改正すればいいんですよ。
      主計局なんて課レベルに落とせばいいじゃないですか。電卓叩いてた頃とは違うんだから。
      若しくは最高裁判事みたいに一年に一度事務次官の罷免を投票で決めるように法改正するとか。
      国会議員やら御用学者やらのレクにかかる人件費は税金で支払っているんですよ。
      役人の最大の弱点は”法律に書いてある”ですから。
    • 0
      kotobukibune_bot

      kotobukibune_bo

      t

      likedしました

      liked
コメントフォーム
記事の評価
  • リセット
  • リセット