今日はこの話題を極々簡単に…



12月2日、イギリス下院外交委員会のオタウェイ委員長は下院審議で、香港の「高度の自治」を明記した「英中共同宣言(1984年)」について、駐英中国大使館が「今は無効だ」との見解をイギリスに伝えていたことを明らかにした。

今年はその「英中共同宣言」調印から30年になる。それに合わせて、イギリス下院外交委員会の超党派議員代表団が、12月13日から香港を訪れ、政治経済面でのイギリスとの関係や、民主的な選挙に向けた改革の取り組みについて調査する予定としていた。

だけど、中国はこれを拒絶。11月28日に、中国の倪堅駐英公使が外交委員会のオタウェイ委員長に香港訪問受け入れを拒否すると通告する中で「中英両国が合意した共同宣言は、香港が中国に返還された97年までは適用されたが、今は無効だ」と述べたという。

当然、イギリスはこれに反発。オタウェイ委員長は「合意文書に記された方針について中国政府は50年間保持すると約束した。中国側は無責任だ。…合意を結んだ相手の履行状況を評価する権限がないと示すのは非常識だ」と非難。香港返還の直前まで対中交渉を担当した当時の外相であったマルコム・リフキンド議員も、国際合意の履行状況を監視し、意見を表明するのは「英政府や下院委員会の義務だ」と断言し、中国の対応を「全く論外」と批判している。

何でもこのリフキンド議員は、1997年の香港返還時に、中国政府が期待通りに共同宣言を守るかどうかが心配だ、と述べたことがあるそうだけれど、ものの見事にその心配が当たった形。

また、このことについて、アメリカ国務省のサキ報道官も12月1日の記者会見で「懸念している。…イギリスの議員が自由に香港に入れるよう希望する」と、中国の対応を批判した。

これら批判に対して、中国は逆切れで対応。外務省の華春瑩報道官は12月1日の会見で「ビザを出すか出さないか、誰に対して出すかは、国の主権の問題だ。中国の領土内を他国の議員に調査してもらう必要は全くない。中国は、議員団が調査のために香港を訪問することに反対すると何度もいってきた。…どうしても議員団が調査のために香港を訪れるというのであれば、中国への公然とした対抗であり、2国間関係の発展に不利に働くだろう」と牽制し、3日の会見では、英国の少数者が“道義的責任”を利用して、中国への内政干渉をたくらんでいる。…香港は1997年に中国に返還された。英国には、香港に対する主権も監督権も道義的責任もない」と突っぱねた。

一方、イギリス議会は「香港の調査を取りやめるつもりはない」と表明。オタウェイ委員長によると、どうやら現地で行う予定だった香港の市民への聞き取り調査を、テレビ会議などの方法で行う積りのようだ。

だけど、あの国でテレビ会議で調査なんて可能なのか。少なくとも香港以外の中国本土では、テレビ回線をカットすることくらい平気で出来るし、既に香港でも同じことが出来るかのしれない。そうでなくても、あの手この手で邪魔をして、香港市民をその場に出てこれなくするくらいは簡単だろう。

英中共同声明は、当時イギリスの植民地だった香港の主権を1997年7月1日に中国に返還することを定めたもので、1984年に当時の趙紫陽首相とサッチャー首相により北京で調印された。その宣言では返還後50年間は「一国二制度」の下で社会主義制度を香港に適用せず、香港トップの行政長官選出で1人1票の普通選挙を導入する「香港基本法」の制定が盛り込まれていたのだけれど、30年経って丸ごとちゃぶ台返しされた。

香港は、1839年のアヘン戦争後に結ばれた南京条約(1942年)によってイギリスに永久割譲され、そして1898年には、九龍以北、深河以南の新界地域もイギリスに租借された。その租借期限は99年間とされ、1997年6月30日午後12時までだった。香港の主権を中国に返還することを定めた英中共同声明で、1997年7月1日に中国に返還するとなっているのは、無論、これを受けてのもの。

香港・新界地域の租借について、当初イギリスは香港の永久割譲を強く迫り、中国(清)側は永久租借を主張しぶつかっていたのだけれど、当時の清国の交渉責任者であった李鴻章は、粘りに粘って、永久租借を勝ち取る。

浅田次郎氏の小説『蒼穹の昴』には、その交渉で李鴻章が次のように述べるシーンがある。
「わが国には非常に便利な表現がある。完全は100である。100に届かぬ一歩は99だ。すなわち99という数字は、我が国では永遠を意味する。しかも数字の"九九"(ヂュウヂュウ)と、永遠すなわち"久久"(ヂュウヂュウ)は同じ音を持つ。」
まぁ、こんな手で、ころっと騙されてしまったとはいわないけれど、当時のイギリスはとりあえず 99年の期限付きで条約を締結しておき、いずれ機会をみてその延長を図ればよいと考えていたとされている。まぁ、当時の力関係からみれば、そのような"余裕の判断"も是とされたのだろうと思う。

だけど、その結果は"久久"ではなく"99"年後に、香港は中国に返還されることになる。

元々、香港の中で香港島と九龍半島先端部はイギリスへ永久割譲された土地であり、中国へ返還する義務はなく、また、フォ-クランド紛争の勝利に気をよくした当時のサッチャ-首相が香港返還交渉を一気に行ない、割譲された香港島と九龍半島先端部の保有を永続化しようとする姿勢を一時みせたことがある。

だけど、結局それらだけでは、香港の92%を占める新界の返還後に自立させていくことは難しく、また、香港の食糧や水の供給を完全に中国本土に依存していることや、中国の主権回復に対する強硬な抵抗に遭い、実質的な権益を確保する方針に転換。香港全部を返還することとした。

その背景には、香港に対する「一国二制度」の適用によって、実質上の権益は確保できるとの読みがあったとされる。それ以外にも、既に、イギリスには軍事力で香港を統治するという力がなかったことや、国際道義上の問題という点も指摘されている。

こうして、李鴻章の交渉以来、100年経たずして香港は中国の手に戻ることになったのだけれど、中国はこれらを「本来あるべき姿」として捉えていた。

当時、中国は、新界地域の返還について「収回」という言葉を用いて、本来あるべきところに戻されたとしたのだけれど、この言葉を香港島と九龍半島にも使い、香港全部を取り戻したと喧伝した。
※中国語では、日本語の「回収」が、「収回」と「回収」に分かれる。取り戻す意味での回収は「収回」といい、資源ゴミの回収など、集めるに重点がある場合は「回収」という。

そして、更に30年経って、今回、中国は、イギリスが権益を確保できる拠り所だった「英中共同声明」の無効を宣言した。

足掛け130年掛けて成就させようと企む"香港収回の計"。国家100年の計とはよく言ったもの。

だけど、国家間の取り決めである共同宣言を一方的に破棄する中国のやり方は、国家間の約束など守らないと宣言するも同じ。このロジックでいけば、イギリスだって共同宣言前の状態、すなわち香港はイギリスの領土であると主張することだってできる。

国家間の取り決めや法が無視された瞬間に秩序は崩壊する。

こうした中国の態度は、安倍総理が地球儀外交、価値観外交を展開して「法の下の支配」を繰り返し訴えてきた理由に説得力を与えることは間違いない。

自身の横暴さを世界に隠さなくなった中国。「香港収回130年の計」は中国の国際的イメージを決定づけるものになる。

コメント

 コメント一覧 (3)

    • 1. 欧米人は中国人の本性知りません
    • 2014年12月06日 07:03
    • 一番はアメリカ表向きは中国批判していますが
      裏ではベッタリです
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    • 2. opera
    • 2014年12月06日 12:48
    •  これで台湾問題の解決は「力づく」しか無くなりました。以前の中国なら、本音は別にして、こういう馬鹿なことは言わなかったでしょう。指導部が無能なのか、余裕がないのか、あるいはその双方か。
       日本から見ても、尖閣と状況が似てきました。軍事的には既にそうなっているでしょうが、政治的にも、尖閣・台湾は日本の防衛線と言わざるを得ない状況になるかもしれません。
       他方、現在の台湾は、先の統一地方選挙での歴史的惨敗で与党国民党の指導部が総辞職・空洞化し、すでに15年末の立法院選挙、16年の総統選挙に向けた動きがスタートしたと言われています。
       今後の台湾の動向にも要注意ですね。
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    • 3. ちび・むぎ・みみ・はな
    • 2014年12月06日 12:59
    • 支那について議論しても虚しい.
      あそこは弱ければ下手に出て国際法云々といい,
      強ければ俺の勝手だという.
      国際資本が商売相手として動かしている疑似国家.
      エーテルの流れを議論するようなものだ.
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