昨日のエントリーのコメント欄で、MIMO-MUについて質問をいただいたので、今日は、その補足エントリーをさせていただきます。
MIMOは、送信するデータを複数のアンテナで送って、複数のアンテナで受信する技術で、従来のそれぞれ一個のアンテナでの送受信では、データを直列に並べて順番に送る形になるのだけれど、MIMOでは、それらをアンテナ数分に分割して、それぞれ同時に並列送信する。これによって、単位時間あたりに通信できるデータ量は大幅に増やすことができる。
一行一行頭から順番に読んでいく、普通の本の読み方を単一アンテナによる送受信だとすると、MIMOは、複数行を同時に読んでいくといった、速読のような送受信に相当するといえる。
だけど、2行、3行を一辺に読んでいく速読は確かに速く読めることは間違いないけれど、読んだ内容をちゃんと把握していなければ、速く読めても意味がない。速読できる人は、複数行を一度に読んでもきちんと内容を把握している。恐らく、複数行を一度に見た情報を、瞬時に頭の中で繋げる処理などをして、一連の文章としてその内容を把握しているのではないかと思われる。
この同時に読んだ複数行を元の一本の文章に戻す作業は、MIMOでも同様に行っていて、複数のアンテナで一度に受信した並列データに対して、元の直列データに戻す処理(復調)をしている。
次の図は、MIMOでの電波の伝送路を示したもの(入出力それぞれ3本アンテナの例)なのだけれど、下の図の例では、各アンテナから送信するデータを青、緑、赤で表している。
電波による伝送は、通常、ケーブル通信とは違って、一本のアンテナから発信したデータは、受信側の複数のアンテナそれぞれに届く。図の例でいうと、一番上の送信アンテナから発信した青データ(h11、h12、h13)は、3つある受信アンテナのそれぞれに伝達される。同様に真ん中のアンテナから発信した緑データ(h21、h22、h23)、一番下のアンテナからの赤データ(h31、h32、h33)もそれぞれの受信アンテナに届いてしまう。
従って、受信側のアンテナ1本には、送信側の3本のアンテナからのデータがそれぞれ届くことになるのだけれど(h11+h21+h31/h12+h22+h32/h13+h23+h33)、それを受信側で必要なデータ要素だけ取り出して、繋ぎなおして元のデータに復元する。
昨日のエントリーで、MIMOのバリエーションについて紹介したけれど、次の図はそれらの模式図を示したもので、右上がMIMOで、右下がMIMO-MU。
どちらも入力側出力側のアンテナが複数あるけれど、MIMO-MUはそれがユーザーの数に合わせて複数組ある。だけど、MIMOとMIMO-MUでは、伝送する信号の処理に少し違いがある。
MIMOの通信方式は先に述べたとおりだけれど、現実の通信で、送信側と受信側のアンテナの性能が全く同じになることは有り得ない。携帯電話なんかがいい例だけれど、送信側が大出力のアンテナで送信するのに対して、受信端末である携帯側のアンテナ出力は相対的に小さくなるのが普通。
また、その携帯端末でも、アンテナ数の少ない端末とアンテナ数の多い高機能通信が可能な端末があったりする。
そんな状況でMIMO通信をする場合、送信側は受信側の端末のアンテナ数や性能に合わせて、伝送速度を設定しなおし、それぞれの端末と一つずつ通信を行うことになる。この時、受信端末の性能が低いと、送信側はそのスペックをフルに発揮できないから、トータルでみると、通信効率が落ちてしまう。
MIMOにはこうした欠点があるのだけれど、それを解決するための技術として出てきたのがMIMO-MU。
MIMO-MUでは、送信側のデータに「ビームフォーミング」と呼ばれる細工をする。
ビームフォーミングとは、送信側からの送信データをビーム的に絞ってやることで、受信器のアンテナに狙いを定めて、信号の強い地点を作り出す技術。
電波は波の性質を持っているから、2つの電波の山と山を重ねれば、より強い信号になるし、逆に山と谷を重ねてやると、それぞれ打ち消し合って信号は弱くなる。この性質を利用して、アンテナから送信する出力や、波の山谷の位置(位相)などを絶妙に調整することで、特定の地点だけに、送りたいデータを送信することができるようになる。これがMIMO-MU。
以前「音撃鏡LRAD」や「エルラドの音撃」で、LRAD技術について述べたことがあるけれど、MIMO-MUのイメージとしては、これに近い。
このMIMO-MUが可能とする超指向性通信は、軍事用のレーダーシステムには非常に大きな力となる。何せ、特定場所に特定のデータだけ送信することが出来るのだから、敵に盗聴される危険が極めて低い上に、味方への通信にしても、余分な情報をカットして必要なデータだけ送信できる。
寧ろ、民間より軍事面での有用性のほうが高いのではないかとさえ。
もしもこのMIMO-MU型レーダーが固定レーダーサイトだけじゃなくて、要撃戦闘機などに積んだレーダーなど移動する相手にも適用できるのなら、その有用性は更に高まることは間違いない。
今後益々、MIMO-MU技術に注目が集まることになると思う。
コメント
コメント一覧 (2)
kotobukibune_bo
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含まれていると思う. 何と言っても(送信)アンテナが
複数あればビームフォーミングができるのだから.
それに対して, MU は multi-user つまり複数ユーザなのだから,
本来はビームフォーミングの技術とは無関係だと思う.
そもそも, 現在のレーダ・アンテナは複数のアンテナ要素を
並べて口径を大きくした合成開口方式なのだから
それ自身がMIMOといえないこともない. 特に, 日本の
(アンテナ)要素独立駆動・処理型のアンテナはMIMOだ.
複数の(合成開口)アンテナを運用する方式として
単一の合成開口レーダと区別するためにMIMOを
持ってきたのだろうが, マクロ的なビームフォーミングを
表すために MU を持ってきたのだろうか.
最近の技術者は形から入って名称の本来の意味を気にしない
傾向がある. 普段から苦々しく思うところ.
kotobukibune_bo
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