今日はこの話題を極簡単に…


1.中国に傾く中台軍事バランス

7月5日、中国中央テレビ(CCTV)の番組「軍事報道」が中国最大の戦術訓練基地である内モンゴルの朱日和合同戦術訓練基地での軍事演習を報じた際、台湾の総統府とそっくりの建物が映ったとして話題になりました。

カナダの民間研究機関、漢和情報センターの平可夫代表は、2014年以降、人民解放軍は攻撃の標的にする台北の建物などを模した演習用施設を増やしているとして、「習近平指導部が、台湾の武力統一に向けて着々と準備を進めていることは間違いない」とのべ、演習場には総統府だけでなく、周辺の街並みが広範囲にわたって再現され、空軍や陸軍なども同様の施設をそれぞれ建設して演習の標的として使用したり、台北の高速道路を模した道路で交通網を麻痺させる作戦の訓練が行われていると指摘しました。

また、8月9日には、アジア太平洋の外交、安保問題を扱うザ・ディプロマットが、総統府に模した建造物の航空写真を公開し、「朱日和の建物と台湾総統府は縦、横、高さがほぼ同じ。その横には総統府付近に実際にある建物に似たものが少なくとも二つある。一つは外交部の建物で、もう一つは台北第一女子高の校舎に似ている。女子高校舎隣の運動場は、総統府周辺では最大の空地であり、もし中国軍にその意志があれば、そこにヘリコプターを着陸させることができる」と解説しています。

人民解放軍は1996年から、南京軍区に属する福建省沿岸の東山島で台湾攻撃を想定した軍事演習を行っており、2005年頃には、福建省沿岸にある台湾の金門島、馬祖島と地理的条件が似ている広東省の沿岸の海陵島の東8キロにある小島に軍事訓練施設を設置して演習を行ってきました。

人民解放軍は島に台湾の空軍基地を模した滑走路を作って、F16戦闘機の実物大模型を置き、海陵島から小型ミサイルを撃ち込んだり、上陸したりする演習を行っていたそうです。

これらは、台湾侵攻の為の演習であることはいうまでもありませんけれども、台湾総統府とそっくりの建物を作ったということは、総統府への攻撃も作戦の視野に入ったということです。

軍事侵攻は何も、海岸から上陸してじわじわと首都に迫るというものだけではありません。いきなり首都中枢を急襲し、首脳を拘束・殺害する作戦もあるのですね。織田信長の桶狭間のように、いきなり本陣を襲って大将首を取るというやつです。これはその名のとおり「斬首戦略」と呼ばれています。

具体的には、まず制空権を抑えてから特殊部隊を降下させたり、または、特殊部隊を乗せた民間機や民間機に偽装した軍用機を台北の空港に着陸させ、台湾の政府、軍の首脳を拘束殺害して、指揮系統を破壊するという作戦行動になると見られています。

実際、台湾総統府を模した建物で演習をした後、中国の解放軍報は「演習中、斬首行動は成功した」と伝えていますから、明らかに「斬首戦略」を想定しているものと思われます。

この演習については台湾でも伝えらえ、騒然となったようです。ただ、相手の手の内が分かれば対応することもできる筈ですね。まぁこれは半分冗談ですけれども、総統府の概観はそのままで、中を忍者屋敷よろしく罠だらけに大改装するとか、地下に台湾軍特殊部隊の詰所をつくるとか。或は、地下道を掘って脱出経路をつくっておくとかも考えられますけれども、これはもう既にあるかもしれませんね。

台湾軍は、海軍陸戦隊を含めた陸上戦力が約21万5000人あり、更に有事には陸・海・空軍合わせて約165万人の予備役兵力を投入可能とみられています。けれども、その兵器は旧式と化していて、装備の近代化が課題だとされています

平成26年の国防白書では、台湾と中国の軍事力の特徴として次のように記載されています。
中台の軍事力の一般的な特徴については次のように考えられる。

① 陸軍力については、中国が圧倒的な兵力を有しているものの、台湾本島への着上陸侵攻能力は限定的である。しかしながら、近年、中国は大型揚陸艦の建造など着上陸侵攻能力の向上に努力している。

② 海・空軍力については、中国が量的に圧倒するのみならず、台湾が優位であった質的な面においても、近年、中国の海・空軍力が着実に強化されている。

③ ミサイル攻撃力については、中国は、台湾を射程に収める短距離弾道ミサイルなどを多数保有しており、台湾には有効な対処手段が乏しいとみられる。

軍事能力の比較は、兵力、装備の性能や量だけではなく、想定される軍事作戦の目的や様相、運用態勢、要員の練度、後方支援体制など様々な要素から判断されるべきものであるが、中国は軍事力の強化を急速に進め、中台の軍事バランスは全体として中国側に有利な方向に変化しており、今後の中台の軍事力の強化や、米国による台湾への武器売却などの動向に注目していく必要がある。

このように、中台間の軍事バランスは中国有利に傾いています。




2.台湾は集団的自衛権の対象か

では、今後の台湾の防衛はどうなるかということなのですけれども、今の安倍政権が進めている安保法制、集団的自衛権の範疇に台湾が含まれるのかどうかという観点が一つあると思うんですね。これについては6月15日に行われた「我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会」で、維新の党の初鹿明博議員が質問し、岸田外相が答弁しています。次に該当箇所を引用します。
○初鹿委員 では、ちょっと話題をかえて、今度は密接な関係にある国に移ります。

 先ほど後藤議員の質問で、北朝鮮は明確に入らないと答弁されましたが、それ以外の国は排除しないということでしたが、それでよろしいんでしょうか。

○岸田国務大臣 先ほど答弁させていただきましたように、北朝鮮以外の国につきましては、日米同盟の現状等を考える際に、米国は密接な関係にある他国に入る可能性は高いと御説明をさせていただきました。それ以外につきましては、極めて限定的ではありますが、個別具体的に判断していくことになると考えております。

○初鹿委員 国交があるかないかというのは判断材料になり得るんでしょうか。

○岸田国務大臣 国際法上、自衛権を行使するのは国でありますので、密接な関係にある国というのは国家であります。その国家につきましては、従来、未承認国あるいは分裂国、こういった国も入るという説明をしていたと承知をしております。その範囲内で密接な関係にある他国を考えていくことになると考えます。

○初鹿委員 未承認国や分裂国も入る。

 では、具体的に聞きますが、台湾は入るということですか。

○岸田国務大臣 密接な関係にある他国につきましては、今申し上げましたように、自衛権を行使するのは国でありますので、国家が該当し、そして未承認国あるいは分裂国家も入る、このように説明をしております。

 そして、その上で、台湾について御質問をいただきました。台湾につきましては、我が国として説明する際に慎重を要するということ、これは外交についてお考えを持つ委員であるならば十分御案内のことかと思います。

 我が国は、サンフランシスコ平和条約第二条によって、台湾に対する全ての権利、権原及び請求権を放棄していますので、台湾の法的地位に関して独自の認定を行う立場にない、このように我が国としましては説明をさせていただいております。

 台湾につきましては、以上でございます。

このように、政府は、「密接な関係にある国には、未承認国や分裂国も含まれるけれども、台湾については国かそうでないかを決める立場にない」としているのですね。まぁ、どちらともとれる微妙な表現です。

ただ、一つ注目すべき点として、先日の安倍談話で、台湾について、次のように述べたくだりがあります。

「我が国は、先の大戦における行いについて、繰り返し、痛切な反省と心からのお詫びの気持ちを表明してきました。その思いを実際の行動で示すため、インドネシア、フィリピンはじめ東南アジアの国々、台湾、韓国、中国など、隣人であるアジアの人々が歩んできた苦難の歴史を胸に刻み、戦後一貫して、その平和と繁栄のために力を尽くしてきました」

このくだりは、台湾を他国と同列にしたうえ韓国や中国より前に持ってきたと、特に台湾で大きく取り上げられた部分なのですけれども、よくよく読むと、国としたのは"インドネシア、フィリピンはじめ東南アジアの国々"で、台湾、韓国、中国は"隣人"として国とはいってないのですね。

まぁ、これは台湾を国だと規定できない日本の立場を守りつつ、韓国、中国と同列にするテクニカルな文章だと思いますけれども、もし中国が隣人とは何事だ、国であると抗議すれば、その時点で台湾も国と認めたことになりますし、抗議されなくても、台湾を韓国や中国の前にもってきた並びから、暗に台湾を国扱いしていると見ることができます。実に巧妙で見事な文章だと思います。

ということで、現状では、明確に台湾が集団的自衛権の対象であるとは述べていないものの、その可能性は十分にあるとみていいと思いますね。

そもそも、台湾が中国の手に墜ちれば、シーレーンが完全に危うくなりますからね。その危険度は、南シナ海の埋め立て島や、東シナ海のガス田プラットフォームの比ではありません。沖縄もそうですけれども、台湾の動向は、日本の存立危機に直結していることをもっと自覚するべきだと思いますね。

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コメント

 コメント一覧 (2)

    • 1. 八目山人
    • 2015年08月29日 06:57
    • 岡崎久彦氏が10数年前から 中国は必ず台湾を取りに来る。その時アメリカと日本が共同でそれに対処すると言えば止める。 だから集団的自衛権が重要なのだと言っておられます。
      アメリカがヘタレオバマで日本が集団的自衛権が行使できない今はチャンスなのです。
      そういえば馬エイキュウが変なこと連発しているのは 日本に台湾を防衛すると言わせないためなのかもしれません。
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    • 2. 白なまず
    • 2015年08月29日 08:49
    • 日本は金門島の戦いの映画を日台で作り、公開して欲しいですね。そこに、米国資本の映画会社が加われば世界中で公開される。支那が台湾へ侵攻するときに、世界中の人が映画を見ていれば、歴史的な背景を物語として捉えているので、台湾を支援する空気が醸成されるかもしれません。そして、愈々支那の侵攻の時に日米が助太刀する展開になれば、台湾独立、国連承認と進む可能性がある。勿論、支那が反対するでしょうが、、、その時は国連を解体して、新たな枠組みに成るかもしれない。
      根本博中将 戦争映画では描ききれない真実の物語 映画PV
      https://www.youtube.com/watch?v=uoHzi7tZdrA
      台湾を救った陸軍中将根本博の奇跡
      https://www.youtube.com/watch?v=bgxKmScdT_s
      金門島の戦い/根本博中将
      http://nezu621.blog7.fc2.com/blog-entry-1713.html
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