今日はこの話題です。


この度、イギリスの政府交通機関のHighways Englandが走りながら電気自動車を充電できる道路を試験導入すると話題になっているようです。

報道によると、これはイギリス政府主導で開発中の「Dynamic Wireless Power Transfer (DWPT)」と呼ばれる新しい技術ということなのですけれども、原理はどうやら「ワイヤレス充電」のようですね。

ワイヤレスで電気を送る技術については、2010年に「ワイヤレス送電技術」、「キャパシタ搭載バス」というエントリーで、取り上げたことがありますけれども、筆者はこの技術を使って「高速道路の側壁に全部送電コイルを埋めておけば、高速道路でも、ワイヤレス給電ができるかもしれない」と述べたことがあります。エントリー当時は、比較的実現しやすいのではないかと思っていたのですけれども、やはり現実化したということですね。

計画では、実際の高速道路の条件でシュミレーションするためにデザインされたオフロードで、今年後半に制限的なトライアルが開始、トータルで18ヶ月のトライアルを経た後、イギリス国内の高速道路と国道で、この新しい技術がきちんと問題なく機能するか設置実験を行うとしています。

現時点では、DWPTの仕様の詳細は明らかになっていないようですけれども、公開された図面を見る限り、どうやら、磁気共鳴コイルを道路の下に埋め込み、電気自動車の底部に取り付けたピックアップコイルで受電する仕組みのようですね。

画像

けれども、イギリスでは、この計画に反対を唱える人もいます。カーディフビジネス学校の電気自動車センターオブセクセレンスのディレクターであるポール・ニューエンハイス博士もその一人で、博士はこの計画について次のように述べています。
「充電設備を備えた道路は、とても野望があっていい。しかし最大の課題は工事費用だ。私はこの道路に大金を投入する価値があるとはあまりにも思わない」
つまり、工事費用が嵩むといっているんですね。事実、イギリス政府はこの計画に5年で5億ポンド(約1000億円)の予算を計上したそうなのですけれども、確かに、道路にコイルを埋める工事となると、設置区間にもよりますけれども、費用は掛かるでしょうね。

ワイヤレス送電にはいくつかの種類があるのですけれども、今回イギリスが実証実験を行おうとしている磁気共鳴方式以外に、実用化されている技術として、電磁誘導方式によるワイヤレス給電があり、こちらについては既に、各地で実証実験が行われています。

日本でも、2011年1月末から2月中にかけて、非接触給電型の都営バスが、晴海埠頭~東京駅丸の内南口間を営業運転しましたし、同じく2011年12月には、「第42回東京モーターショー2011」に合わせて12月2日~18日まで、東京ビッグサイトと豊洲駅の間で営業運行しました。

更に、長野市でも、民間に運営委託し、長野駅や善光寺、県庁などの中心市街地を巡る循環バス「ぐるりん号」の1つの車輌が、早稲田大学などが開発した、プラグ式とワイヤレス式の両方で充電できる電動バス導入・運行しています。

画像

また、韓国でも、2013年に亀尾市が、道路下に埋設された装置からワイヤレス給電できる電気バス2台を導入し、亀尾市駅とインドン地区間の路線を運行しています

こちらの方は、路線距離が約24kmあるのですけれども、そのうち、道路下の充電装置は、総運行距離の約5~15%に埋設されており、誘導給電式バスが近づくまで電源は入らない仕様だそうです。まぁ、路線バスに限定してやれば、停留所の下の道路に送電コイルを埋めてやれば、停留所に停車している間に給電できますからね。導入しやすい面はあると思いますね。

けれども、電磁誘導式のワイヤレス送電は、コイル同士の距離が離れると極端に送電効率が落ちるという問題があります。非接触給電型のバスも導入当初は、送電可能距離が5cm程しかなく、当時の実証試験では、受電部をバスから機械的に下降させ、送電部に近づけて給電していたのですね。

その後、コイルの巻き方など設計の最適化を追求した改良が加えられ送電距離を伸ばすことに成功、路面から直接バス床下の受電部に送電することが可能となりました。現在、長野で使っている装置は、35kWの電力を90%以上の効率で給電できるようです。

画像

けれども、これで問題が全て解決した訳ではありません。延びたとはいえ、電磁誘導方式は送電距離が短いというのが根本的な課題であり、何メートルもの送電が実用レベルで出来ている訳ではないのですね。
実際、長野の「ぐるりん号」にしても、送電装置と受電装置の中心軸がずれると送電効率が極端に落ちるため、きちんと充電するには両者がぴたりと重なるようにバスを止める必要があります。これには、バスの運転手たちも相当苦労し、慣れるのに1ヶ月以上かかったそうです。

ということで、走りながら充電するためには、電磁誘導式は不向きであり、より距離のある送電を可能とする磁気共鳴方式の充電技術が着目されるようになってきた訳です。

今回のイギリスの実証実験は、磁気共鳴方式のワイヤレス充電であり、これが実用化されると、電気自動車の普及に大きく役立つことに間違いありません。

反対派の中には、EVのバッテリーの持続時間が伸びれば、この充電設備を備えた道路は「必要ない」という声もあるそうですけれども、筆者としては、「キャパシタ搭載バス」のエントリーで述べたように、道路の下ではなくて、側壁やガードレールに設置すれば、コストは抑えられそうな気がします。

画像

ただ、現時点では、磁気共鳴方式でも送電距離は数十cm程度であり、ガードレールに設置するまでにはまだ課題があると言えます。

それでも、バッテリー性能の向上と、交差点や料金所といった、煩雑に止まる箇所に磁気共鳴方式のワイヤレス充電設備を設置することで、限定的なワイヤレス給電の実現は近いと思います。

事実、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)も、2015年頃に街中の交差点付近で走行中の給電実験を開始し、2020年頃の実用化を目指しているようですから、東京オリンピックの頃には色々と新しい自動車がお目見えしているかもしれませんね。



コメント

 コメント一覧 (1)

    • 1. 白なまず
    • 2015年08月31日 02:33
    • 結局、100年遅れてニコラテスラの無線電力送電が見直されて、交通システムを再構築するかもしれませんね。
      【ニコラ・テスラの「世界システム」はよみがえるか】
      http://www.itmedia.co.jp/enterprise/articles/0911/29/news002.html
      【「ワイヤレス充電」実現へ前進――MITが実験に成功】
      http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0706/08/news021.html
    • 0
      kotobukibune_bot

      kotobukibune_bo

      t

      likedしました

      liked
コメントフォーム
記事の評価
  • リセット
  • リセット