今日はこの話題です。
9月23日、NPO法人「言論NPO」は日本と中国共同の世論調査結果を公表しました。
これは、日中両国の相互理解や相互認識の状況やその変化を今後継続的に把握することを目的に、2005年から言論NPOとチャイナデーリー紙が共同で開始したもので、今回で12回目。
調査は8月から9月にかけて行われ、日本側の世論調査は、全国の18歳以上の男女を対象に実施され、有効回収標本数は1000。回答者の最終学歴は、中学校以下が8.2%、高校卒が47.3%、短大・高専卒が18.2%、大学卒が23.7%、大学院卒が1.3%です・
対する中国側の世論調査は、北京・上海・広州・成都・瀋陽・武漢・南京・西安・青島・鄭州を含む10都市で、18歳以上の男女を対象に実施され、有効回収標本は1587。回答者の最終学歴は中学校以下が10.2%、高校・職業高校・専門学校卒が34.9%、大学卒が24.0%、ダブルディグリーが0.2%、大学院卒が0.5%でした。
調査の結果、日中関係が「良くない印象」と回答したのは、日本側は91.6%、中国側は76.7%でした。
日本人が中国に「良くない印象」を持つ最も多い理由は、「尖閣諸島周辺の日本領海や領空をたびたび侵犯しているから」の64.6%(昨年46.4%)で、2番目に多い理由は「中国が国際社会でとっている行動が強引で違和感を覚えるから」で51.3%と昨年の31.0%から大きく上積みされています。
これに対し、中国人が日本に「良くない印象」を持つ理由では、昨年調査と同様に「侵略の歴史をきちんと謝罪し反省していないから」が63.6%(昨年70.5%)が最も多く、次に「日本が魚釣島を国有化し対立を引き起こしたから」が60.6%(昨年68.1%)。そして、「日本は米国と連携して軍事、経済、イデオロギーなどの面から中国を包囲しようとしているから」が48.8%(昨年41.1%)と続いています。
これについて、言論NPO代表の工藤泰志氏は、「今回の調査結果の第一の特徴は、これまで改善に傾いていた両国民の意識が再び悪化に転じたこと」と述べ、「これまで現状の日中関係に対する国民の認識は、政府間の交渉、とりわけ首脳レベルの会談の動向に影響を受けていた。その点で言えば、長らく途絶えていた日中首脳会談が再開され、会談時の首脳の表情も笑顔に変わってきたにもかかわらず、国民の意識は逆に悪化し始めた。……両国でこれからの日中関係の改善に確信を持てない人が増加している」と指摘。
更に「両国民の相手国に対する認識は、自国メディア報道の動向や国民間の直接交流に大きく依存している」とした上で、この一年間の報道が認識の悪化に大きく作用しているとコメントしています。
日本では、中国の尖閣周辺への公船や漁船の日本が主張する領海への侵犯とそれに関する報道が連日のように行われたことが、「尖閣諸島の周辺での領海を侵犯している」、「中国が国際社会で取っている行動が強引で違和感を覚える」の回答が増えたことに繋がり、中国では南シナ海情勢に関する報道で日本が米国と連携して対中包囲網を形成しているという論調のものが中国メディアに数多くあったことが、「日本が米国と連携して中国を包囲している」が増加した原因となっていると述べています。
けれども、自国の安全を脅かしかねない動きは警戒するのが普通です。この指摘は、ある意味当たり前といえば当たり前だと思います。
そして、工藤氏は「今の日中関係の問題は、国家間の対立であり、その解決は非常に難しい局面にあることを多くの国民が自覚し始めた」ことがあると分析し、こうした国民間の不安を「首脳間の動きは解消できる力を現時点では持っていない」と述べた上で、『今後、交流を進めるべき分野』という設問で、中国人は『メディア間の交流』を最も重要だとし、日本人は留学生交流の次に、『両国関係の改善や様々な課題解決のための民間対話』を選んだことに興味を覚えたとしています。
その理由として、中国人がメディア交流を選ぶのは、メディア報道を変えることで事態の沈静化を期待する人が多いからであり、メディアの限界を知っている日本人で民間対話が多いのは、課題の解決に取り組む民間の動きの方が、世論に訴え、政府行動に影響力が大きいと判断しているからだ」と述べているのですけれども、メディアが煽りさえしなければ上手くいくと思っている中国世論と、メディアに任せていても駄目だと判断している日本世論との意識のズレが見えるようで、筆者はこちらのほうにより興味を覚えますね。
要するに、メディアの意見がそのまま世論の意見になると考えている中国と、メディアの報道を受けた個々人の判断の集積が世論になると考える日本との違いが見えているのではないか、ということです。
これは、おそらく、両国の政治体制が大きく影響していると思うんですね。共産主義の中国では、政府の意見はほぼそのままメディアの意見として報じられますし、国民による総選挙もありませんから、メディアの意見が世論だと考えるのも無理からぬところがあります。一方、日本はメディアの影響力は否定しませんけれども、国民投票があるので、国民一人ひとりの判断がそこに入ります。ですから、個人レベルでの民間対話を進めることで世論が形成されると考えるのは自然が事だとも言えます。
けれども、問題は、その自国の政治体制を基準にした改善策を相手国にそのまま投影してしまうことだと思います。日本側が求める民間対話を進め、個人レベルでの相互理解が進んだとしても、それが中国の政治に反映されるかというと、簡単な話ではありません。中国人民には、選挙権もなければ、言論統制の箍が填められているからです。
特に習近平体制になってからの言論統制には苛烈なものがあります。国内の大学には自由を教えるなと通達を出し、言論人には圧力を掛けて党に対する批判を封殺しています。
ですから、単に交流を進めるだけでは、その動きは遅々たるものになると思います。
けれどももし、そこに突破口があるとするならば、それは、「利」と「自由」が表裏一体のものであると、中国人民が自覚したときではないかと思います。つまり「自由」が保証されなければ、生きることさえできない状況に持っていくということです。
ペンシルベニア大学の中国メディア学者であるマリア・レプニコワ氏は、習近平主席の言論統制強化策について、仮に成功して自らの支配を強固にしても、長期的には失敗する可能性があると指摘しています。
レプニコワ氏は「現実的に異論がほとんど聞かれなくなり、世論が下から上に効果的に伝達されなくなって、その結果、党の利益と一般国民の利益の断絶が大きくなる可能性があるということだ」と述べています。
つまり、党の利益に沿って行われるメディアの宣伝に従っていると、生きていけなくなるという状況になれば、党の言う事を聞かなくなるだろうということですね。その時にこそ、中国国内で「革命」が起こる可能性が出てくる。その意味では、バブル崩壊中の今の中国に、その危険が迫っていると見る事も出来るかもしれません。
その時に、中国が"暴発"して他国を侵略するのを阻止すべく日本は周辺国と連携して防衛力を強化する。やはり、大きな流れではそうすべきだと思いますね。
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