今日はこの話題です。
1月1日、北朝鮮の金正恩労働党委員長は、朝鮮中央テレビを通じて放送された2018年新年の演説で、韓国との対話再開を匂わせる発言をしました。
金正恩は演説の中で「新年はわが人民が共和国創建70周年を祝い、南朝鮮では冬季オリンピック競技大会が開かれることで、北と南にこのように意義のある年だ……平昌冬季オリンピックは、民族の地位を誇示する良いきっかけとなり、私たちは大会が成功裡に開催されることを心から願っている……北朝鮮も代表団の派遣を含めて必要な措置を執る用意がある」と述べました。
そして「私たちは民族の尊厳と気概を内外に知らしめるためにも、凍結状態にある北南関係を改善し意味深い今年を民族の歴史に書き加える年に輝かさなければならない」と語り、南北対話を滲ませる一方、「何より南北間の先鋭的な軍事的緊張状態を緩和し、朝鮮半島の平和的な環境から用意しなければならない……北と南の情勢を激化させることをこれ以上してはならず、軍事的緊張を緩和し、平和的環境を用意するために共同で努力しなければならない」と米韓合同軍事演習の中止を暗に求めました。
北朝鮮はこれまで韓国からの平昌五輪参加への呼びかけを全く無視していたのですけれども、今回の演説で一転参加の意思を示したことになります。これも国連の安保理決議による経済制裁の影響があるのではないかとも見られています。
これが本当だとすれば、対話の場に引き摺り出すために、まず圧力を掛けるという日米の方針は正しかったということになります。
この南北対話の可能性を示唆する演説に対し、韓国大統領府報道官は同じく1日「歓迎する」との声明を述べ、「大統領府はこれまで、南北関係の修復や朝鮮半島の平和に関連した事案であれば、時期や場所、形式などにこだわらず、北朝鮮と対話する用意を明らかにしてきた……平昌五輪が平和の五輪として成功裏に開催されれば、朝鮮半島や北東アジア、ひいては世界の平和や和解に寄与するだろう」と形式に関係なく接触に応じる方針を示しています。
ただ、この金正恩の呼び掛けは罠だという指摘もあります。
デイリーNKジャパンの高英起編集長は、金正恩が、南北関係改善のための条件として、米韓合同軍事演習を中止し、米軍が韓国に配備したTHAADを撤収しろと要求している点を挙げ、平昌五輪参加を餌に韓国をアメリカと北朝鮮との板挟みに追いやる腹だと指摘しています。
もし、韓国が対話を拒否すれば、半島に緊張を齎しているのは韓国とアメリカのせいだといって、核・ミサイル開発を正当化できますし、対話を望むのなら、その前に米韓合同軍事演習の中止とTHAAD撤廃をしなければならなりますからね。
北朝鮮にとってはどちらに転んでも失うものはないという訳です。
金正恩は同じ演説の中で「アメリカ本土全域がわが国の核攻撃射程圏内にある。核のボタンが私の事務室の机の上にいつも置かれているというのは脅迫ではなく現実であることを自覚すべきである」と核・ミサイルを手放すことはないと宣言しています。
今の所、韓国は対話に前のめりです。
1月2日、韓国の趙明均・統一相は記者会見を開き、北朝鮮に対し、今月9日にパンムンジョムの韓国側の施設、「平和の家」で南北の高位級会談を開くことを提案するとともに、、「時期、場所、形式などにこだわることなく北と対話する用意がある……平昌オリンピックへの北の参加の問題について協議するとともに、南北関係の改善のため、互いの関心事について虚心たん懐に議論したい」と条件なしでの対話の意向を示しています。
このような南北朝鮮の動きに対して、アメリカは冷ややかです。
国務省のナウアート報道官は2日の会見で「どこまで話し合いに真剣なのか、大いに疑わしい……韓国が北朝鮮との対話を望んでいるのなら、それは彼らの選択だ」と突き放していますし、ヘイリー国連大使も「あらゆる核兵器の廃棄に向けて何かしない限り、どんな話し合いも真剣に受け止めることはない」と丸っきり相手にしていません。
また、トランプ大統領も「ロケットマンははじめて韓国と話がしたいと言い始めた。これはよいニュースかもしれないし、そうではないかもしれない。様子を見てみよう」とツイートして北朝鮮の動向を注視する考えを示しました。
ここで少し注目したいのは、トランプ大統領がツイッターで明らかに金正恩にメッセージを送っていることです。
金正恩が自分の机に核ボタンがあると発言したことについて、トランプ大統領は「痩せて飢えている政権の誰か、彼に伝えてやってくれ。『私も核のボタンを持っているが、彼のよりはるかに大きくて強力だ』と……私のボタンは作動する」とツイートしています。
「痩せて飢えている政権の誰か、彼に伝えてやってくれ」という一文には、北朝鮮が経済制裁によって、政権内部ですら飢えに苦しんでいることを知っているぞ、という意味がありますし、もっと穿ってしまえば、ロケットマンにアメリカの意向を伝えるスパイがいるんだぞと疑心暗鬼を呼ぶメッセージをも発しています。
また「私のボタンは作動する」とわざわざ付け加えている所など、北朝鮮の大陸間弾道弾はまだ完成に至っていないことを知っているぞ、と伝えているのだと思いますね。
ほんの百数十行のツイートメッセージの中に、北朝鮮の内情をアメリカは把握しているぞと警告している訳です。決して単なる対抗意識による軽い発言ではない。しっかり圧力を掛けています。
トランプ大統領は"らしい"発言をしているようにみせて、実に緻密に計算して発言しているのだと思いますね。
一部には、アメリカの北朝鮮への武力行使は、最短で1月9日だという説も上がっているようですけれども、トランプ大統領およびアメリカ政府高官の直近の発言からは、北朝鮮の内部崩壊を狙っているような節も感じられます。
トランプ大統領が「様子を見てみよう」と発言した以上、1月9日、Xデー説は遠ざかったと思いますけれども、現時点で状況は何も変わっていません。
ただ、対話を叫ぶだけではまったく進展しなかったことが、圧力を前面に出すことで対話の可能性が出てきたという点が明らかになったのは良かったと思いますね。
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