昨日の続きです。
アメリカのシリア攻撃を巡り、各国間の対立が鮮明になってきました。
国連安保理では攻撃の正当性を主張する米英仏とそれを批判するロシアで非難の応酬が交わされています。
アメリカのヘイリー国連大使は安全保障理事会の会合で、シリアが化学兵器による攻撃を繰り返せばアメリカは再び攻撃する構えだと強調し、化学兵器で亡くなった子どもたちの写真は「偽ニュース」ではなく、アサド政権による「残虐行為」の結果だと語りました。
また、フランスのドラットル国連大使は、シリアの化学兵器製造体制を「検証可能かつ不可逆的」な形で解体する必要があると語り、現地への人道支援を可能にする停戦と「包括的な政治的解決」の実現を呼び掛け
更に、イギリスのピアス国連大使も、シリアが化学兵器の製造中止と廃棄に応じるならば外交解決を図ると述べました。
これに対し、ロシアはシリア攻撃を国際法と国連憲章への違反だと非難する決議案を提示したのですけれども、過半数を獲得できず否決。ロシアのネベンジャ国連大使は会合後の記者会見で、攻撃はシリア危機の「政治的解決」を遠ざけたと批判し、米英仏の動きを「作り話と偽善、欺瞞の外交」と非難しています。
当事国のシリアのジャアファリ国連大使も米英仏が世界の平和と安定を損なったと主張し、その「無知と横暴」を自覚させるために国連憲章のコピーを配布するべきだと語り、国連のグテーレス事務総長は関係各国に自制を強く呼び掛け、「事態を深刻化させてシリア国民の苦難を深めるような行為」を慎むよう求めています。
14日、トランプ大統領、メイ首相、フランスのマクロン大統領はそれぞれ二国間で電話協議し、共同で行ったシリアのアサド政権への攻撃は成功したと確認。それぞれの政府は「アサド政権に化学兵器使用をやめさせるために必要だった」と正当性を強調し、攻撃を「国際法違反」と非難するロシアやアサド政権に反論しています。
同じく14日、NATOは加盟29ヶ国の代表で作る理事会の緊急会合を開き、米英仏を指示したことを明らかにしました。
会合の後の記者会見でストルテンベルグ事務総長はNATOの同盟国は国連が主導する和平協議を進展させるため、ロシアをはじめとするアサド政権を支援する勢力が責任を果たすよう呼びかける」としてロシアとイランに対し、アサド政権への影響力を行使するよう強く求めました。
更に、ドイツのメルケル首相も、国際社会による化学兵器廃絶の実効性を保ち、シリアのアサド政権による再使用を防ぐためには「必要かつ適度な軍事行為」とし、「われわれは支持する」との声明を発表。欧州連合のトゥスク大統領も米英仏の攻撃は「シリアの政権がロシアやイランとともに、何の代償もなしに人道的な悲劇を続けることはできないと示した……EUは同盟と正義を支持する」とツイッターで表明しています。
欧州は大体今回のシリア攻撃を支持していますね。.
日本も14日、安倍総理が「化学兵器の使用は非人道的で断じて許せない。拡散と使用を許さないとの米英仏の決意を支持する」と表明しつつも軍事的な行動については「これ以上の事態の悪化を防ぐための措置と理解している」と「支持」ではなく「理解」という表現にとどめています。
ただ米英仏を始め、シリア攻撃を支持する国々のコメントをよく見ると、どれもアサド政権が化学兵器を使用したという「非人道的行為」を批判し、軍事行動そのものの是非については温度差があります。
その理由として、国連決議なしでの攻撃に踏み切るなど法的根拠に乏しいことがあると考えられます。実際、シリア攻撃に反対しているロシアなどは正にその点をもとに批判していますけれども、化学兵器使用については「本当に使用したかどうか分からない」という立場に留まっています。
要するに、裏を返せば、どの国も「人道に反する行為」は悪であり、裁かれなければならない、という共通認識があるということですね。
今回のシリア攻撃にしてもシリアの化学兵器関連施設3ヶ所に限定しての攻撃であり、「懲罰」的な意味合いが強いことは事実です。つまりこれによってアサド政権の打倒は考えていないということです。
アメリカのメイ首相は「内戦への干渉や政権交代が目的ではない」と強調していますから、少なくとも対外的には「非人道的行為」は許さない。それは正義である、というスタンスを取っているということです。
実際、現実問題として、シリア軍はアサド政権を守るために組織設計されていて、アサド一族が、訓練され装備も充実した大隊の指揮権を握り、軍と治安機関の上層ポストの過半数を占めています。
政府要人も利権供与を通して富を蓄積していて、アサド政権への忠誠を誓っています。外から考えるよりもずっと強固な体制を取っているのですね。
ですから、そうそう簡単にアサド政権は倒れない。であれば、化学兵器だろうがなんだろうが放置するという選択肢も考えられなくもありません。けれども、トランプ大統領を始め、英仏の首脳はそうしなかった。
その理由については、いろんな意見があるかと思いますけれども、一つには、全く放置してしまえば、今後、シリア内戦に介入する口実がなくなってしまうであろうことも考えられます。
アメリカがシリアに手を出すことがないとなれば、シリアを隠れ蓑にして、良からぬことをすることも出来ます。シリアで製造された化学兵器がテロリストのみならず、第三国に輸出されることだって在り得る訳です。そうなれば、世界は今よりもずっと危険なものになります。
ある意味、トランプ大統領を始めとして、シリア攻撃を指示した各国は、「人道に反するかどうか」を軍事攻撃を行う際のレッドラインとして定義したともいえ、今後シリアだけでなく、他国に軍事攻撃する際の指標として、「人道に反するかどうか」を使ってくる可能性があると思いますね。
それを考えると、もしかしたら、北朝鮮の拉致問題も米朝会談において、意外な重さを持ってくるかもしれませんね。
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