昨日の続きです。
6月20日、アメリカのマティス国防長官はドイツのフォンデアライエン国防相との会談冒頭、北朝鮮が非核化に向け具体的な行動を取ったかについて「私の知る限りない」と、核放棄の行程など詳細に関する米朝交渉も始まっていないとの認識を示しました。
米朝会談の折にはトランプ大統領が「非核化プロセスは迅速に始まる」と述べていたのですけれども、早くも暗雲の気配が漂ってきました。
アメリカは既に8月に予定されていた米韓合同指揮所演習の中止を決定していますけれども、もしもこのまま北朝鮮が非核化に動かなければ、トランプ大統領は騙されて譲歩したのだ、と風当りが強くなるでしょうね。
まだ、米朝会談から10日程した経っていませんから、騙されたと断じるには早いでしょうけれども、あまりモタモタしていると、トランプ大統領は更なる圧力を掛けるものと思われます。
北朝鮮はどこまで非核化の意思があるのか。
北朝鮮は米朝会談後も核の段階的廃棄を唱え、経済制裁緩和を訴えていますけれども、朝鮮労働党幹部や、国内の富裕層は必ずしも経済制裁緩和を歓迎している訳でもないという情報もあるようです。
中国に派遣された北朝鮮の幹部によると、中央の高官、外貨稼ぎ機関の関係者、新興富裕層の間からは「現状を維持し国際社会から原油支援さえ引き出せばいい」という声がよく聞かれるそうで、「朝鮮労働党本部庁舎の幹部たちは一様に、非核化に大きく反発している。しかしそれは表向きのものだ。本音では、非核化に合意して国際社会がすぐに経済制裁を解くことに不安を抱いているのだ」と全面経済制裁解除は困るとしているのですね。
共産主義の筈の北朝鮮になぜ富裕層がいるのかというと、社会主義的な「計画経済」が1990年代に崩壊してしまったからです。この時期は、北朝鮮を経済的に支えていた旧ソ連・東欧の社会主義圏が消滅した時期でもあり北朝鮮でも多数の餓死者が出たとも言われています。
この時、北朝鮮政府は、それまで禁じていた「商売」に人民が手を付けるのを黙認。これを切っ掛けに北朝鮮の資本主義化が細々と始まりました。
最初は衣類や家財道具などのささやかな"財産"を売って糊口を凌いでいた人民でしたけれども、その中から、中国との小規模な密輸で原資を蓄え、そのカネを国営工場に投資。海外から燃料と発電機、原材料を輸入し、中国企業からの委託生産で大規模な輸出を行うという具合に成りあがるものも出てきたのですね。
このように、特権階級と化した富裕層が、経済制裁の解除と大規模な外国資本の投資によって、その既得権益が奪われてしまうのではないかという危惧を持っているとも指摘されているようです。
また、非核化によって軍部の縮小とそれに伴う軋轢も考えられます。一説には100万人を超えるとも言われる朝鮮人民軍ですけれども、非核化後もその規模を維持できるかどうかも定かではありません。
民需を活性化に伴い、軍から優秀な人材が民間に流れることも考えられます。
中国・吉林省の吉林大学東北アジア研究院副院長の張慧智教授によると、現在、北朝鮮には三つの資産があると述べています。
一つは「金・銀・銅やレアメタルなどの鉱産資源が大量に手つかずに残されていること」、二つ目は、「北朝鮮が、企業経営責任請負制など資本主義的な経済モデルを導入して、経済開発が進められる素地があること」。そして三つ目が「北朝鮮が高いIT産業レベルを有していること」です。
特に三つめのIT産業については、北朝鮮が国家で優秀な人材を育て、高校生や大学生のなかには欧米諸国のプログラマー並みのスキルを持つ人材もいるとされています。特にそうした人材は軍が抱え、サイバーテロ要因として使っているとも噂されています。
仮に、北朝鮮の非核化後、経済制裁が解除され、北朝鮮に大量の外資が入ってきた日には、そうした軍が抱えている人材の多くが求められることになるでしょう。それは同時に、軍の縮小を意味するのみならず、これまで北朝鮮を支えてきた朝鮮人民軍の存在意義を揺るがすものにも成りかねない危険を孕んでいると思いますね。
これまで先軍政治で軍を第一にしていた北朝鮮政府ですけれども、経済支援を受けて外資を大規模に導入すること自体が相対的に軍の地位を引き下げてしまうことになる訳です。
金正恩は、4月に核開発が完了し、経済発展に全力で取り組む用意が整ったとして、今後は経済促進を目標とする考えを表明していますけれども、軍が素直に従ってくれるのかどうか。
勿論、金正恩が絶対権力を持つ絶対独裁者で、誰も手だし出来ないのであれば、まだしも、実際は軍のクーデターを恐れ、米朝会談にシンガポールにいくことさえ恐れていたような状況です。
これらを考え合わせると、北朝鮮に外資を導入するといってもそう簡単な話ではないようにも思えますね。
金正恩がトランプ大統領と約した「北朝鮮の非核化」は、彼にとって大きな賭けとなっているのかもしれませんね。
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