今日はこの話題です。
7月26日、アメリカのペンス副大統領はワシントンで講演し「中国政府は、数十万人、もしくは数百万人の規模でイスラム教徒のウイグル族を再教育施設という場所に収容している。宗教の信仰と文化的な帰属意識を失わせようとしている」と非難しました。
さらに、同じく、アメリカ政府で人権問題などを担当しているカリー大使も連邦議会で開かれた公聴会で「習近平政権が去年の4月からテロとの戦いを名目にイスラム教徒に対する抑圧を強めている」と述べ、新疆ウイグル自治区では、イスラム教を若者に教えることやイスラム教徒的な名前を子どもにつけることが禁止になるなど、かつてない抑圧的な政策を進めていると強い懸念を示し、中国政府にやめるよう申し入れたことを明らかにしました。
アメリカ国務省は5月29日、「信仰の自由に関する国際報告書」の2017年版を発行しています。この報告書では世界各国の信仰の自由に関する現状報告がされているのですけれども、中国については、習近平国家主席への権力集中が進んだ昨年10月の共産党大会前から宗教活動への締め付けが強まり、現在も継続中であると指摘しています。
この報告書は毎年出されているのですけれども、去年8月に2017年版が報告された時、当時のレックス・ティラーソン国務長官は発表会見で「信教の自由が保障されなければ、動乱や人権侵害、極端な暴力主義が大きく根を下ろすだろう……アメリカはこれらの問題を無視できない。トランプ政権は、すでに全世界の信教の自由を促進するよう現状を改善しようとしている。国務省も引き続き信仰を堅持する人々を応援する」と述べています。
実は、アメリカの国務省は共産党政権の中国を、国民の信教の自由の権利をひどく侵害する「特別問題国」に1999年から指定しているのですね。つまりずっと前から中国をそのような国だと見ていたということです。
にも関わらずそれがあまり知られていないのは、政府高官が公の場でそれを発言しなかったからだと思われますけれども、今回ペンス副大統領が発言したことで、クローズアップされることになりました。ティラーソン前国務長官が発言したように、トランプ政権は現状を改善すべく動き出したということです。
その一方、6月19日、アメリカは国連人権理事会からの離脱を表明しました。
その理由として、アメリカのヘイリー国連大使は「人権への関与を後退させるのではなく、逆に関与するからこそ人権を踏みにじる偽善的で利己的な組織にとどまれなくなった」と述べ、現在の人権理のあり方について、人権侵害国が理事国の立場にあることで「人権侵害国の保護者であり、政治的偏向の掃き溜めだ……世界最悪の非人道的な体制が監視を逃れている」と批判しました。
アメリカ曰く、トランプ政権として人権理の改革を追求してきたものの、中国、キューバに加え、ロシアやエジプトが改革を妨害したとし、「名前に値しない組織だ」と手厳しく批判しています。
アメリカは人権理について、人権侵害国を理事国から排除し、イスラエルのパレスチナに対する「人権侵害」に関する恒常的な議題を削除する主張をしてきたのですけれども、その願いは叶わず、アメリカは人権理設置以来初の離脱国となりました。
どうも、トランプ大統領の登場この方、この手の離脱が多くなったと感じます。良くも悪くもはっきりしている。
アメリカがこの方針を続けることで、国連の地位と影響力が低下する可能性もあります。
アメリカは国連に供出する分担金の支払いをちょくちょく遅らせているのですけれども、それによって国連は資金難に陥っています。
国連加盟193ヶ国中、日本を含む112ヶ国は既に今年の支払いを終えていますけれども、アメリカはまだ未納です。
国連のグテーレス事務総長は、加盟国に分担金の速やかな支払いを求める異例の書簡を出し、「あなた方の国連です……国連は“破産寸前”に追い込まれるべきではない」と分担金の支払いを促しています。
国連がいきなり破産するとは思えませんけれども、図らずも国連の存在意義を問われることになりそうです。
今後、トランプ大統領は二国間交渉を通じ、人権侵害国に直接、改善を迫る方針と見られています。
その意味では、今回のペンス副大統領の発言はその方針に従ったものと見る事もできますね。
ただ、今回トランプ大統領ではなくペンス副大統領が発言しているところに若干の中国に対する配慮が含まれているかもしれません。全面対決までは一気にエスカレートはさせないように一歩踏みとどまっている感じはあります。
ただ、米中貿易戦争の最中での発言なだけに中国に対するプレッシャーは益々強まるでしょうね。
今回、ペンス副大統領で名指しで批判された中国は当然のことながら猛反発。
27日、中国外務省の耿爽報道官は記者会見で、「アメリカは、中国政府が法に基づいて社会の治安を維持していることを故意にわい曲するとともに、民族政策を中傷しており、断固たる反対を表明する……宗教を利用した内政干渉を直ちにやめるよう要求する」と中国では信仰の自由が保障されていると反論しています。
二年前のエントリー「中華人民共和国憲法を超越する存在とは何か」で述べたことがありますけれども、中国において、法の最高に位置するのは憲法ではありません。その上に中国共産党が君臨しています。
中国の憲法前文に「中国の各民族人民は、引き続き中国共産党の指導の下に……我が国を富強、民主的、かつ、文明的な社会主義国家として建設する」と謳われています。憲法そのものが共産党の指導の下にあるのですから、いくらでも恣意的に解釈し、変更することが可能です。
ですから、中国の反論とて、その土台から違っている可能性があることを忘れてはいけないと思いますね。
ともあれ、トランプ政権が公然とと人権問題で中国を批判したことは大きな転換点になるかもしれませんね。
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