昨日の続きです。
中国の対アメリカ報復関税ですけれども、対象製品の総額が600億分しかなく、早くも余裕がないのではないかと指摘されています。
というのも、既に中国がアメリカの輸入品に貸した報復関税額は1100億ドルと輸入総額1300億ドルの8割を超えてしまっているからです。
対するアメリカの中国製品への制裁対象額は2500億ドルで、中国からの年間輸入総額5000億ドルの半分にしか過ぎません。
普通に報復合戦をつづけても、中国が先に体力が尽きるのは明白なのですけれども、それでも対抗策を出さざるを得なかったのは、「北戴河会議」を控えている事情があるからです。
中国共産党の最高指導者たちは、毎年7月末から8月初めに渤海を望むリゾート地・北戴河に集まり、約3週間の夏休みを過ごすのですけれども、過去30年、中国の国政に関する多くの重大政策や人事議案は、この非公式の場で提起されたり決定されたりしています。このリゾート休暇が「北戴河会議」と呼ばれているのですね。
この北戴河が脚光を浴びるようになったのは、�ケ小平時代からになります。毛沢東時代は、毛沢東自身が絶対権力を握っていた為、わざわざ非公式会談を持つ必要がなかったのですけれども、�ケ小平時代になると、中国共産党は複数幹部による共同指導体制に移行した影響で、各派閥や利害集団がこの時期に非公式会談することが通例となっていきました。
これが北戴河会議として未だに続いているのですね。
8月4日、国営の新華社は党幹部らが河北省の北戴河で各界の専門家との会合に参加したと伝え、北戴河会議が始まったことを示唆しています。
習政権が、アメリカの制裁関税に何の対抗策も打ち出せなければ、会議で「弱腰」との批判が起きかねないという事情から、無理を承知で追加の報復関税を宣言したのだとの憶測も流れているようです。
まぁ、国内的に対抗策をぶち上げるのは結構ですけれども、それがちゃんとした実績に結びつかなければ結局は同じ事です。
或いは貿易関税では対抗できないとなると、別の方向、例えばかねてから打ち出している「一帯一路」構想を成功させることで、批判を封じ込めようと力を注ぐかもしれませんし、もっと手近なところでは、南シナ海の支配域を拡大することで、失態を埋め合わせしようとすることも考えられますね。
けれども、それについてもアメリカは対抗しようと動き出しています。
8月3日、ポンペオ国務長官はASEANとの外相会議で「アメリカは太平洋国家だ」とのべ。トランプ大統領が昨年11月に提唱した「自由で開かれたインド太平洋戦略」は、ASEANを中心に展開されると表明しました。
アメリカは7月30日にインド太平洋の成長支援のための地域ファンドの設立を発表。約1億1350万ドルを融資するとしています。
無論、この1億ドルという金額は中国が主導する「アジアインフラ投資銀行」の資本金約1000億ドルと比べれば微々たるものですけれども、「自由で開かれたインド太平洋戦略」のもとで進む投資ですから、その投資の透明性は中国のそれよりずっと上になるだろうと予想されます。
ましてや、増してや借金のカタに自国のインフラを分捕られてしまうようなことは在り得ません。
前から指摘されていることですけれども、中国は他国に多額の金を貸し付けては返済できないとみると、その借金のカタとして貸し付けした国のインフラを奪い取るという手段を使います。
例えば、スリランカ南部のハンバントータ港はその建設費の多くを中国からの融資で賄っていたのですけれども、結局返済できず、港の株式の80%を中国国営企業に貸与し、リース料として11億2000万ドを受け取ることで合意しました。
けれども、そのリース期間は99年ですから事実上の売却みたいなものです。余談ですけれども、中国では99年は永遠とほぼ同じ意味を持っていますから、中国に言わせればハンバントータ港はずっと俺のものだ、ということですね。
このように、「一帯一路」の美名の下、援助を受けていたはずが、巨額の借金を抱えた上でインフラも奪われる、という中国のやり方について、警戒感が各国で広がっているのも事実です。
IMFのラガルド専務理事は「一帯一路」について、「参加各国は、フリーランチと考えるべきではない」と警鐘を鳴らしていますし、アメリカのティラーソン前国務長官も、一帯一路の参加国が、完成したインフラを中国側に譲渡する事態に対し、「主権の一部を放棄しないで済むよう注意深く検討すべきだ」と訴えています。
ASEAN諸国を中心に、「一帯一路」と「自由で開かれたインド太平洋戦略」がぶつかりつつあるのですけれども、対象の国々がどちらに靡くのかについては予断を許しません。
なぜなら、それらの国の中には、政権内に腐敗を抱え、西側諸国の「透明性」ある取引を嫌うところもあるからです。
「自由で開かれたインド太平洋戦略」と一口にいっても、まずは第一歩のとこから乗り越えなくてはならないハードルもあることを理解した上で、慎重にASEAN各国を西側に取りこんでいっていただきたいですね。
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