今日はこの話題です。



8月21日、自民党は総裁選挙管理委員会を開き、来る総裁選を9月7日告示、20日投開票とする日程を決めました。

野田聖子総務相も出馬に意欲を示していますけれども、国会議員20人の推薦人を確保する目途は立っておらず、安倍総理と石破元幹事長の一騎打ちになる見通しです。

総裁選は国会議員票405票と地方票405票の計810票で争われ、地方票となる党員・党友の投票条件はこれまでの「20歳以上」から「18歳以上」に引き下げられます。

既に、国会議員票の7割以上を確保していると見られる安倍総理の3選が有力視されています。

劣勢の石破氏は「モリカケ」問題を持ち出すなど安倍総理批判を強めています。

この石破氏の姿勢に参院竹下派を率いる吉田博美参院幹事長は、党役員連絡会で「個人攻撃ではなく政策の議論をしてほしい」と苦言を呈していますし、21日の記者会見でも「相手への個人的なことでの攻撃は非常に嫌悪感がある……しっかり時間を取って議論をしていただくことが良い」とコメントしています。

吉田参院幹事長は心情的には安倍総理支持なのですけれども、政治の師である青木幹雄元参院議員会長の意向をくんで参院竹下派を石破氏支持で纏めようと苦心している最中に、肝心要の石破氏が安倍総理の個人攻撃では憤懣やる方ないでしょう。

実際、11日に吉田氏が安倍総理と電話で話した際には「首相に対する個人攻撃じゃないか。石破氏には『反安倍を掲げて総裁選をやるなら支持できない』と言ってやるつもりだ」と語ったと伝えられています。

その吉田氏が指摘した政策議論についてなのですけれども、現時点で石破氏は「官邸の信頼回復」と「9条改憲は急ぐ必要がない」を公言しています。その他の政策については順次発表する意向のようです。

石破氏は総裁選に向けてこちらの特設サイトを開設しているのですけれども、「正直、公正、石破茂」というキャッチフレーズを掲げています。

筆者は新総理が誕生した際、総理を漢字一字で表わすとどうなるか、というエントリーを昔していたのですけれども、2012年12月の総選挙後、安倍総理、麻生元総理、石破氏、谷垣氏の4氏について次のような一字で表現したことがあります。
石破氏の一字は何かというと、それはおそらく「直」になると思う。
本人自ら、超リアリストと言っているように、何事にも「直言」する。いい事も悪い事も、事実をありのまま見せて、それについての対策を考え、人に訴えかける。そんな特質がある。
もう8年も前の記事なのですけれども、石破氏を表わす一字はやはり「直」であるとの印象は変わらないですね。

安倍総理批判にしても、自分の評判を落とすことになってでも、思ったことをいうという意味では、石破氏らしいといえばらしいのかもしれません。

ただ、そうであれば、尚の事、政策で皆を唸らせることが出来れなければ、ただの批判屋であり、野党と変わらなくなります。

さて、その石破氏の政策についてなのですけれども、総裁選特設サイトでは、「政治・行政の信頼回復100日プラン」を掲げ「勇気を持って自由闊達に真実を語り、協議し、決断する」、「多様な組織と対話・調整し、国会を公正に運営し、政府を謙虚に機能させる」、「政府は全ての人に公正な政策や条件づくりに努める」をするとしています。

ただ、これは方法論としてこうしたいというだけであって、具体的な政策を出している訳ではありません。今の所、具体的なのは100日という期限だけです。

もう少し政策に近しいものといえば、こちらの石破氏のブログの8月10日付の記事に「政治・行政の信頼回復100日プラン」について少し記載があります。それは次のとおり。
官邸の信頼回復(公平性と客観性を重視し、国民の立場に立った内閣人事局の改革、官邸スタッフの面談の透明化など)、国会の信頼回復(党内の中堅・若手の提言を踏まえ、国会運営の改革、行政監視機能の強化など)、行政の信頼回復(地方と中央の信頼関係に立った役割分担の見直し、最大のサービス業であるとの認識に立った国民本位の行政の確立、災害多発や人口急減・超高齢化・少子化に対応する組織の改編と働き方の改革など)をその内容として考えております。
まぁ、一言でいえば、官邸・国会・行政の組織や運営を見直すということですね。

では、これが政策になるのか、というと、やはり物足りない。何故なら、そこにある世界観が小さすぎるからです。

8月13日のエントリー「総裁選出馬を表明した石破氏の世界観」で、筆者は、石破氏は世界観で安倍総理に負けていると述べましたけれども、「政治・行政の信頼回復」というのは、日本という国が目指す世界観としては小さすぎます。もっと厳しいことをいえば、世界観ですらないと思います。

地政学者の奥山真司氏は戦略には階層があるとして「戦略の階層」理論を紹介しています。

「戦略の階層」については、過去のエントリーで何回か取り上げていますので、繰り返しませんけれども、戦略の階層の最上位にある"世界観"は「人生観、歴史観、地理感覚、心、ビジョン等」を示すものであると定義しています。

これを国に当てはめると「日本は如何なる国で、どうあるべきか」という根本に描くべき国家ビジョンになります。

この「戦略の階層」理論に基づいて、石破氏の「政治・行政の信頼回復100日プラン」を当てはめてみると、「今ある官邸、国会、行政の枠の中でそれぞれの資源をどう活かしていくか」とうレベルであり、戦略の階層でいえば、上から4番目の「軍事戦略」あるいは3番目の「大戦略」に届くかどうかといった段階だと思われます。

少なくとも、日本はこうだから、こうしていく、といった世界観、政策のレベルには達していない。つまり「戦略の階層」理論に従えば、石破氏が政策だといって出しているものは政策ではない、ということになります。

徳島文理大学教授の八幡和郎氏は、石破氏の新刊『政策至上主義』を読んだ感想として、「全般的に、丁寧に説明し、議論してもらうという姿勢論に終始して、政策らしきものは何もない」と手厳しく批判しています。

まぁ、これから総裁選が進むにつれて、政策議論がされるとは思いますけれども、そこに如何なる"世界観"を打ち出してくるのか。或はないのか。

筆者はその辺りに注目して見ていきたいと思いますね。
 

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