今日はこの話題です。
9月5日、アメリカのニューヨーク・タイムズはトランプ政権の匿名の高官が、「大統領は道徳観念に欠けている」などと批判する異例の論説記事を掲載しました。
そこでは、「トランプ大統領は、明確な原則に沿ってものごとを決断するようなタイプの人間ではなく、「自由貿易」や「民主制度」に敵対的な考えを直感的に持っている」とし、「トランプ政権で任命された高官たちの多くは、民主制度を守りつつ、政権終了時まで、トランプ氏が思いつきで間違った政策を行おうとするのを阻止しようと誓った」と述べられています。
この記事ついて、トランプ大統領は「この高官が実在するなら、安全保障上の理由から直ちに政府に引き渡さなければならない」と反発。誰が寄稿したのかと臆測を呼んでいます。
この事態を受け、政権の主要な幹部が相次いで「寄稿したのは自分ではない」と否定しました。
6日、ペンス副大統領の広報責任者はツイッターに「副大統領は自分が書いた記事には名前を載せる」と投稿。ポンペイオ国務長官は、訪問先のインドで「私の記事ではない」と述べたほか、国防総省の報道官も「マティス国防長官の記事ではない」とする声明を出しています。既に25名以上の高官が自身ではないと執筆を否定しています。
ホワイトハウスのサンダース報道官はツイッターで「匿名の臆病者が誰なのかメディアは激しい執着を見せているが、トランプ大統領に仕える多くの偉大なアメリカ人の評判を傷つけている……嘘に加担した人たちに聞けばいい」と投稿し、臆測報道が過熱していると批判しました。
このニューヨーク・タイムスの報道について、一部では、またフェイクニュースだ、と批判する向きもあるようですけれども、地政学者の奥山真司氏は自身のブログで、「個人的にこれまでの一連の報道などを踏まえてみると、かなり信憑性の高いものであると感じている」としながらも「この"子供大統領"を、ある意味では共和党側のスタッフたちがある程度は自分たちのアジェンダのために使う、という部分もある」と指摘しています。
なるほど「○○とハサミは使いよう」という訳です。
ニューヨーク・タイムズは、この高官の名前を公表すれば失職する可能性があるため匿名にしたと経緯を説明しています。
論説面を担当している編集者のジム・ダオ氏は、数日前に政権高官から仲介者を通じてニューヨーク・タイムスに連絡が入り、トランプ大統領に対する「抵抗勢力」について寄稿することに関心があると伝えてきたそうです。
ダオ氏によれば、寄稿者の身元を知っているのは社内でもごく少数で、「身元を保護するための特別な予防措置を数多く行っている」そうです。けれども、文章のスタイルについては、書き直すなどの身元を隠すような特別な措置は取らなかったそうです。
英文でどの程度なのは分かりませんけれども、文章の癖というか文体にはそれなりの特徴が出るものですから、ニューヨーク・タイムスが寄稿を修正なしで乗せたのなら、それなりに投稿者を絞り込める可能性があると思いますね。
今回の記事にトランプ大統領は激怒し、執筆者について「国家安全保障の担当者か司法省の関係者ではないか」と疑い、「信用できるのは自分の子供しかいない」と漏らしているようです。
トランプ政権内では、この高官の割り出しが進められているとして、既に執筆者を数人に絞り込んだとCNNが報じていますから、あるいは執筆者が割り出されるのかもしれません。
ただ、執筆者の割り出しを急ぐトランプ大統領に対し、ケリー大統領首席補佐官は放置するように助言。この件でこれ以上注目を集めるべきではないと判断していると伝えられています。
トランプ大統領は7日、大統領専用機内で記者団に「セッションズ司法長官は、誰が書いたのかを捜査すべきだ。国家の安全保障に関わる問題だ……寄稿者が機密情報に触れる権限を持っていれば、中国やロシア、北朝鮮問題に関わる会合にも出席するだろう。私は出席してほしくない」と述べました。
確かに、トランプ大統領に失脚して欲しい他国があれば、このチャンスを活かさない筈がありません。特に中国は涎を垂らして見ているのではないかと思いますね。
実際、8月24日、アメリカ連邦議会の「米中経済安全審査委員会(USCC)」が「中国共産党の海外における統一戦線工作」と題する報告書を発表し、中国共産党による各種工作活動の実態を暴いています。
報告書では、中国による工作活動は「統一戦線工作」と総称され、「敵」を味方の陣営に引き込み、同じ戦線に立たせることを意味するとし、その工作は、世界各国に対する「最も国家転覆的で、最も反民主主義的な浸透工作だ」と指摘しています。
そして、「中国共産党は統一戦線工作の範囲を海外まで広げ、外国政府や現地の華人に影響を与えることにより、北京政府に利する結果を得ようとしている……目的はアメリカ人を転向させ、アメリカ政府とアメリカ社会の利益に反対するように仕向けることだ」と警告しています。
今回の記事で、トランプ政権内は大きく動揺し、ホワイトハウスで予定されていた多くの会議が取りやめになっているそうですから、影響は小さくありません。
果たしてどう決着するのか分かりませんけれども、地政学者の奥山真司氏が指摘するように、共和党がトランプ大統領を"上手く使おうとする"部分があるのなら、その結末についても、ある程度の落とし所で収めてしまうこともあるかも知れませんね。
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