今日はこの話題です。
9月21日、菅官房長官は記者会見で、携帯大手3社について「全業種平均6%の利益率なのに20%、7000億円前後の利益を上げているのはおかしい……公共の電波を利用してサービスを提供しているが、3社が競争しない」と儲け過ぎだとの認識を示して料金の引き下げを改めて求めるとともに、携帯を自社の回線でしか利用できなくするSIMロックに言及し「世界で例のない商慣行が独占禁止法などに抵触する恐れがあるという指摘まで受けている」と語りました。
実際、2018年3月期の日本企業の営業利益ランキングをみると、1.3兆円を稼ぎ出したソフトバンクが3位、9700億円のNTTドコモが4位、9600億円のKDDIが5位と、携帯3社がトップ5に顔を出しています。
携帯電話が周波数の割り当て制に守られ、事業者がわずか3社しかいないことを考えると、菅官房長官の指摘は的外れとはいえません。
政府が、こうした携帯料金の見直しに触れたのは、8月21日、菅官房長官が札幌市内で講演した際、日本の大手携帯事業者には競争が働いていないと指摘し、携帯電話の料金は今より4割程度下げる余地があると述べたことに端を発しています。
続く、8月27日の記者会見で、菅官房長官は日本の通信料について「OECD加盟国平均の2倍程度と報告を受けた。今よりも競争すれば引き下げ余地があるのではないか」と、21日の発言の根拠を示し、8月30日の記者会見では、携帯電話に関連する手続きについて「『時間がかかりすぎる』という国民の皆様の声も多く頂いている。こうしたことも検討すべきだ」と発言しています。
菅官房長官は小泉政権下の2005年に竹中平蔵総務相のもとで総務副大臣となり、通信の規制緩和に参画。2006年の第1次安倍政権では総務副大臣から総務相に昇格。竹中氏の路線の多くを踏襲し、情報通信産業の国際競争力を高める狙いで諮問機関「ICT国際競争力懇談会」を設置。携帯電話端末の世界シェアを高めるための施策に取り組んできた経歴を持っています。つまりこの分野の素人ではないのですね。
携帯料金については政府が1995年10月に携帯電話の料金認可制を撤廃して以来、様々な変遷を繰り返してきました。
当時、3社が営んでいた第2世代携帯電話に新サービスのPHS事業に4社が参入。7社による競争が始ったことを受け、政府は携帯電話の料金認可制を撤廃しました。
当初は、競争によって携帯料金が下がると見込んでいたのですけれども、その後、事業者の淘汰が進んで、現在の3社体制に収斂。各社が横並びで料金を決める体質へと変貌してしまいました。
政府は、料金認可制を撤廃した手前、携帯各社に値下げを命じることができません。そこで、更なる新規参入を促し、再び料金競争を起こさせようと、取り組んできました。
総務省は2007年からMVNO(Mobile Virtual Network Operator)の振興を進め、2012年6月にはNTTドコモ、au、ソフトバンクモバイル、イー・モバイルの4社間で料金競争が起きるようにと、この4社に3.9世代携帯電話(LTE)用の周波数を割り当てました。ところが、イー・モバイルがソフトバンクに身売りしてしまい、目論見は破綻。
ソフトバンクは、ライバル企業の買収は複雑な料金プランを次々と打ち出して巧みに競争を回避。結局政府は現在に至って、携帯料金を下げることが出来ずにいます。
では、なぜ、このタイミングで菅官房長官が携帯料金値下げを打ち出してきたのか。
その理由の一つに、来年10月に携帯電話事業に参入する楽天があると言われています。
楽天は、今年4月、総務省から現行の第4世代携帯電話用の周波数の割り当てを受けたのですけれども、設備投資資金が不足がちで、自前の通信ネットワーク建設がおぼつかず、既存事業者のネットワークとの接続やローミングが避けられない見通しとなっています。
ところが、既存の通信業者にしてみれば、新たなライバルとなる楽天の参入を歓迎する筈もなく、自分達の通信ネットワークとの接続やローミングの交渉が行き詰まっているのが現状なのだそうです。
そこで、菅官房長官は、携帯値下げ要求をぶち上げて、なんとか、携帯電話事業に競争を促そうとする狙いがあるのだとも見られています。
菅官房長官は過去の失敗を踏まえ、今回の値下げ要求について事前に準備を進めていたとの指摘もあります。
また、菅官房長官の講演での携帯電話に関する内容は事前に総務省側と擦り合わせ、料金の国際比較などのデータも内閣府がつくったと報じられていますから、総務省と菅官房長官ががっつりタッグを組んでいる可能性は高いです。
実際、今年7月、総務省で携帯電話の関連政策を担当する総合通信基盤局長に谷脇康彦氏を任命。谷脇氏は菅官房長官が第1次安倍政権で総務相を務めたときの総合通信基盤局の担当課長でした。彼は競争政策に精通していて、NTT再編などにも携わった経験がある人物ですから、人事から手をつけて準備を進めてきたということですね。
長年、競争を拒んできた通信事業界がこれを切っ掛けに変ることができるのか。注目ですね。
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