今日はこの話題です。



初入閣の閣僚12人を任命してスタートした第4次安倍改造内閣。

その一人、柴山昌彦文部科学大臣の就任会見での教育勅語発言が論議を呼んでいます。

柴山文科相は、教育勅語について、「アレンジした形で、今の道徳などに使える分野があり、普遍性を持っている部分がある……アレンジをした形で、今の例えば道徳等に使うことができる分野は、私は十分にあるという意味では、普遍性を持っている部分が見て取れる……同胞を大事にするなどの基本的な内容について現代的にアレンジして教えていこうという動きがあり、検討に値する」と述べました。

この発言に野党は一斉に反発。共産党の志位和夫委員長は記者団に「教育勅語は、いったん大事が起こったら天皇のために命を投げ出す、ここに核心がある。大臣は基本点を理解していない。非常に重要な発言だ」と批判。社民党の吉川元幹事長も、衆院で1948年に排除決議した点に触れ、「排除されたものを、教育をつかさどる文科相が『良いところがある』なんて言うのはまさに憲法違反だ」と批判しています。

教育勅語とは、正式には「教育ニ関スル勅語」といい、1890年に発表された道徳教育の元となったものです。その中身は、天皇が国民に語り掛けるという形式で述べられた「親孝行」などの「道徳」を尊重する言葉です。

こちらに教育勅語の原文と現代語訳がありますけれども、その中で12の徳目と呼ばれるものがあります。それは次の通りです。
孝  行 子は親に孝養をつくしましょう。
友  愛 兄弟、姉妹は仲よくしましょう。
夫婦の和 夫婦はいつも仲むつまじくしましょう。
朋友の信 友だちはお互いに信じ合ってつきあいましょう。
謙  遜 自分の言動をつつしみましょう。
博  愛 広くすべての人に愛の手をさしのべましょう。
修学習業 勉学にはげみ職業を身につけましょう。
智能啓発 智徳を養い才能を伸ばしましょう。
徳器成就 人格の向上につとめましょう。
公益世務 広く世の人々や社会のためになる仕事にはげみましょう。
遵  法 法律や規則を守り社会の秩序に従いましょう。
義  勇 正しい勇気をもって国のために真心をつくしましょう。
非常に普遍的で人として当たり前に求めるべき内容のように見えます。

これが何故問題視されてきたかというと、戦後まもなく、GHQが教育勅語を否定したからです。1948年GHQは、衆参両議院の文教委員会の委員長を呼んで、教育勅語を否定する決議をするように口頭で指示したとされています。それを受け、衆院で「教育勅語等排除に関する決議」が、参院で「教育勅語等の失効確認に関する決議」が出され可決しました。

これが先に述べた、社民党の吉川元幹事長が指摘した1948年の排除決議です。

けれども、これは、なんのことはないただの占領政策の一つだったに過ぎません。

政府は去年3月に「特別の教科である道徳等の教科等の授業を含む『教育の場』において、憲法や教育基本法等に反する形で教育に関する勅語を用いることは許されない」とする民進党の長妻昭氏の質問主意書への答弁として、教育勅語について「憲法や教育基本法に反しない形で授業で使用することは否定しない」と閣議決定しています。

その上で「政府としては積極的に教育勅語を教育現場で活用する考えは全くなく、教育は学習指導要領に沿って学校現場の判断で行うべきだ」としています。

その上で柴山文科相の発言の主旨を見ると、「アレンジした形で、今の道徳などに使える分野があり、普遍性を持っている部分がある」と「基本的な内容について現代的にアレンジして教えていこうという動きがあり、検討に値する」との大きく二つがあると思いますけれども、前者について政府は「憲法や教育基本法に反しない形で使う分には構わない」とし、後者については「政府として積極的に使う考えはない」という立場ですね。

柴山文科相の発言で問題になる部分があるとすれば、後者の主体が政府なのか、それとも教育現場なのかはっきりしないというところでしょう。前者であれば、従来の政府方針に反しますけれども、後者であれば、政府方針通りです。

これについて、菅官房長官は「柴山大臣の発言は承知していないが。政府としては、積極的に教育勅語を教育現場に活用しようという考えはありません」と従来見解を述べていますから、内閣としては従来どおりという立場を取っているということですね。

では、教育勅語の内容は教育基本法に反しているのか。

教育基本法は、その前文で次のように謳っています。
我々日本国民は、たゆまぬ努力によって築いてきた民主的で文化的な国家を更に発展させるとともに、世界の平和と人類の福祉の向上に貢献することを願うものである。

我々は、この理想を実現するため、個人の尊厳を重んじ、真理と正義を希求し、公共の精神を尊び、豊かな人間性と創造性を備えた人間の育成を期するとともに、伝統を継承し、新しい文化の創造を目指す教育を推進する。

ここに、我々は、日本国憲法 の精神にのっとり、我が国の未来を切り拓く教育の基本を確立し、その振興を図るため、この法律を制定する。
このように至極当たり前の内容ですし、教育勅語の内容がこれに全く反しているようには見えません。

これについて、憲政史家の倉山満氏は、「逆にしたらよくわかる教育勅語」という著書で、教育勅語を逆にしたらどうなるかについて述べています。

それに従って、教育勅語を反対にすると次のようになります。
「逆教育勅語」

1、親に孝養をつくしてはいけません
2、兄弟・姉妹は仲良くしてはいけません
3、夫婦は仲良くしてはいけません
4、友だちを信じて付き合ってはいけません
5、自分の言動を慎んではいけません
6、広く全ての人に愛の手をさしのべてはいけません
7、職業を身につけてはいけません
8、知識を養い才能を伸ばしてはいけません
9、人格の向上に努めてはいけません
10、社会のためになる仕事に励んではいけません
11、法律や規則を守り社会の秩序に従ってはいけません
12、勇気をもって国のため真心を尽くしてはいけません
一見して、社会を破壊する危険思想になっていることが分かります。

これでは、とても、教育基本法が目指す「世界の平和と人類の福祉の向上に貢献する」ことは出来ませんし、「個人の尊厳を重んじ、真理と正義を希求し、公共の精神を尊び、豊かな人間性と創造性を備えた人間の育成を期する」ことなど不可能でしょう。

その意味では、教育勅語を教育基本法の精神の枠内でアレンジし、教育現場の判断で教えることは何ら問題ないと思いますね。
 

コメント

 コメント一覧 (2)

    • 1. 深森
    • 2018年10月05日 04:56
    • 興味が出て来て、検索して行ったら、こんな記事がありました(こちらも、元々は倉山満氏による解説だそうです)。ビックリしました!
      http://best-times.jp/articles/-/4705
      教育勅語を否定する人は「家庭内暴力をどんどんしましょう」「じゃんじゃん浮気しましょう」と言いたいの?(2017.2.23千葉 麗子)
      一、親に孝養をつくしてはいけません。家庭内暴力をどんどんしましょう。
      二、兄弟・姉妹は仲良くしてはいけません。兄弟・姉妹は他人の始まりです。
      三、夫婦は仲良くしてはいけません。じゃんじゃん浮気しましょう。
      四、友達を信じて付き合ってはいけません。人を見たら泥棒と思いましょう。
      五、自分の言動を慎んではいけません。噓でも何でも言った者勝ちです。
      六、広く全ての人に愛の手をさしのべてはいけません。わが身が第一です。
      七、職業を身につけてはなりません。いざとなれば生活保護があります。
      八、知識を養い才能を伸ばしてはいけません。大事なのはゆとりです。
      九、人格の向上に努めてはいけません。何をしても「個性」と言えば許されます。
      十、社会のためになる仕事に励んではいけません。自分さえ良ければ良いのです。
      十一、法律や規則を守り社会の秩序に従ってはいけません。自由気ままが一番です。
      十二、勇気をもって国のために真心を尽くしてはいけません。国家は打倒するものです。
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    • 2. 修
    • 2018年10月05日 07:40
    • 1点だけ、
      >柴山文科相の発言で問題になる部分があるとすれば、後者の主体が政府なのか、それとも教育現場なのかはっきりしないというところでしょう。前者であれば、従来の政府方針に反しますけれども、後者であれば、政府方針通りです。
      どこに問題になる部分があるのでしょうか。
      検討(物事を詳しく調べ考えること。よいかどうかを調べ考えること。)に値すると言っているだけです。
      平成26年の第186回国会 文教科学委員会で、当時みんなの党和田政宗委員の質問に対して、当時中等教育局長の「前川喜平」氏が文科省の見解として以下のように発言しています。
      政府参考人 前川喜平氏 
      「教育勅語の中には今日でも通用するような内容も含まれておりまして、これらの点に着目して学校で活用するということは考えられるというふうに考えております。」
      http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/sangiin/186/0061/18604080061009a.html
      今回の柴山大臣の発言は、従来からの政府見解通りであり、昨年の閣議決定にそった見事な回答であったと思います。当然この手の質問やモリカケ質問は常に想定の範囲内でしょうから、冷静に対応されたと思います。
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