今日はこの話題です。
10月21日、台湾東部宜蘭県蘇澳鎮の台湾鉄路管理局宜蘭線新馬駅構内で、樹林発台東行き特急列車「普悠瑪(ぷゆま)号」が脱線事故を起こしました。
台鉄の発表によると乗客は計366人で、18人の死亡が確認されたほか、168人が重軽傷を負っているそうです。亡くなった方のご冥福をお祈りいたします。
事故原因については調査が進められていますけれども、台湾鉄道は特急列車の脱線事故の監視カメラの映像を公開しています。動画では列車が高速でカーブに突入し脱線する様子が映し出されています。
列車が脱線するメカニズムについては、2012年のエントリー「脱線のメカニズム」で取り上げたことがありますけれども、車輪の粘着力が横圧に耐えられなくなったときに発生します。
横圧とは、車輪がレールの側面に及ぼす力のことで、列車がカーブを走行するときの遠心力や、カーブを走行中に車輪が向きを変えられることによって生じる転向力などによって生じるレールに直角な方向に掛かる力のことです。
脱線した「普悠瑪号」はJR東海の子会社・日本車両製造が製造したTEMU2000型車両で、2012年から2015年にかけ152両が製造されたものですけれども、この列車には空気ばねによる車体傾斜の機能があります。
この車体傾斜機能によって、カーブを曲がるときにはカーブの内側に向かって車体を1~2度傾けることで重心を内側に移し、外側に向かってかかる横圧を軽減することが出来るのですね。これにより「普悠瑪号」はカーブでも通常の車両よりも20km程度高速で走行できるようになっていました。
脱線現場は半径約300mのカーブで、速度制限は時速65km。「普悠瑪号」は車体傾斜式ですから、そこから更に20km程加算した時速85km程度では走行できる能力はありました。
けれども、事故車両の走行記録によると、事故時の速度は140kmに達していたようです。これではいくら、車体傾斜機能があっても、どうしようもありません。動画でも、カーブに差し掛かった車両が大きく外側に傾いてから、脱線していく様子が移っています。明らかに速度超過による横圧が原因と思われます。
地元の検察当局は「速度超過が原因」として22日夜、業務上過失致死容疑で運転士の男性を事情聴取しています。
地裁の報道官によると、運転士は審理の際、列車の速度を保つ安全装置「自動列車制御システム」のスイッチを「自分で切った」と説明。「車両の不調で列車が動かず、発車するために切った」と供述しているそうです。
自動列車制御システム、通称ATP(Automatic Train Protection)とは鉄道における自動列車保安装置のことです。列車が停止信号を無視して進んだ場合や、指示された速度を超過した場合に、光や音を使用して運転士に警告し、それでも運転士が警告に応じなければ、自動的に列車を停止、または制限速度以下に減速させるシステムです。
そもそも、このATPが手動で切れるようになっていること自体どうかとも思うのですけれども、ATPを運転士が切ってしまったというのが本当であれば、大変なことです。
当時、事故列車は15~20分程ダイヤ遅延していて、指令室から急ぐよう催促したという報道もありますし、また、事故直前に2度急ブレーキをかけたと当局は説明しています。
これらのことから、事故車両は通常の走行ではなかった可能性が高いですし、そのような運行をさせた管理責任も問われるべきでしょうね。やはり人災の可能性が非常に高いのではないかと思いますね。
これについて、台湾・中時電子報は、台湾台北市にある銘伝大学の都市計画・防災専門家、馬士元氏が「天下雑誌」で、13年のプユマ号運行開始時に同列車への乗車拒否を表明していたと伝えています。
記事によると、馬氏は「台湾鉄道のレールの多くが老朽化している。より多くのマンパワーと資源を投入する必要があるが、保守のための予算は減り続けている。それに加えて、プユマ号の高速列車という特質も、リスクを相当に高くしている……08年から17年4月までに北部と中部の鉄道修理班の人員が2~3割削減された。彼らの仕事はレールに異常がないか点検し、列車の安全を確保することだ。過去10年近くで花東や屏東潮州の電化、台中の高架化、維持設備の増加などが行われたが、人員は増加されていない。こうしたマンパワーの下で、車体傾斜式の車両を運行させることは高リスクだ。プユマ号が必ず転覆すると言っているのではないが、保守に不備があれば、通勤電車などの電聯車でさえも転覆する恐れがある」と指摘していたようです。
実際、普悠瑪号は昨年10月にも花蓮県の三民駅で脱線を起こしています。この時は幸い怪我人は出なかったようですけれども、この時点で再発防止を含めた対策を徹底してしかるべきでしょう。或は、当時、再発防止策を講じたのかもしれませんけれども、結果として、今回の事故を防ぐには至りませんでした。
今回を教訓として、より一層の安全性の確保に努めていただきたいと思いますね。
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