今日はこの話題です。
11月9日、韓国の文在寅大統領はこれまで経済政策の司令塔の役割を果たしてきたキム・ドンヨン企画財政相と張夏成大統領府政策室長の二名を更迭しました。
それぞれ政府と大統領府の経済政策の責任者というツートップ体勢を取っていたのですけれども、成長に軸足を置く経済官僚出身のキム氏と学者出身で分配重視の張氏はかねてから対立。文政権は来年度予算の成立を待ち、年内に更迭するとの見方が燻っていました。
主要経済指標が軒並み悪化し、雇用も増えない中、文大統領が進める最低賃金の大幅引き上げや労働時間短縮については、低所得層が打撃を受け、逆効果になったとの批判が出ていたのですけれども、11月7日、キム氏が国会答弁で「経済が危機との見方には同意しない。経済に関する『政治的な意思決定』の危機」と政権批判とも受け取れる発言をしたことが更迭の決め手となったのではないかと一部で囁かれています。
後任について、大統領府は、キム企画財政相の後任には洪楠基国務調整室長、張政策室長の後任には金秀顕大統領府社会首席秘書官が就くと発表しています。
経済副首相となる洪氏は旧経済企画院で官僚生活をスタートさせ、企画財政部政策調整局長などを経て、朴槿恵前政権で青瓦台企画秘書官と未来創造科学部(現在の科学技術情報通信部)第1次官を歴任。一方、政策室長に任命された金秀顕氏は盧武鉉元政権で青瓦台の国民経済秘書官と社会政策秘書官、環境部次官を歴任した後、ソウル市のシンクタンク・ソウル研究院の院長を務めました。
金秀顕氏は不動産問題の専門家で、政策ブレーンとして文氏に近く、文政権が「所得主導の成長」と呼ぶ分配重視政策を継続するとみられています。
今回の人事に対する市場の反応は限定的で、ソシエテ・ジェネラルの韓国担当チーフエコノミスト、Oh Suk-tae氏は「政策変更を示すものでは全くない。大統領が政府に対し、今までと同じことをもっと強力に進めてほしいと要求しているにすぎない」と述べています。
ただ、今回の人事を発表した青瓦台の尹永燦国民疎通首席秘書官は、「洪候補が司令塔として経済を統括する」と説明。これまでツートップ体制で行われてきた経済政策は洪楠基氏が統括する体制に変わると述べています。
考えの異なる人物をそれぞれトップに立てるツートップでは無理だと懲りたのでしょう。
洪楠基氏の経済に対する考え方については、まだその詳細は分かりませんけれども、少なくともこれまでのような政権内での対立は少なくなるものと思われます。
目下のところ、韓国経済は悪化の一途をたどっています。
10月、韓国銀行は18年の実質経済成長率の見通しを0.2ポイント引き下げ、2.7%に下方修正。19年も横ばいと予想しています。
最低賃金の大幅引き上げの影響で、就業者の伸びが急減。主力産業もふるいません。
韓国統計庁によると、9月の鉱工業生産指数は99.8と前年同月比で8.4%下落。現代自動車の販売不振や韓国GMの工場閉鎖による自動車生産の減少が響いたとみられています。
また、9月の設備投資指数も前年同月より19.3%低下。サムスン電子、SKハイニックスの半導体メモリー投資が一巡した影響とされています。
韓国上場企業は特に「半導体特需」が生じているサムスン電子とSKハイニックスを除けば、4-6月期の営業利益が前年同期比で減少。特に自動車・造船が含まれた輸送装備業種での4-6月期の営業利益は55.36%も減少しています。
このように現在、韓国経済を牽引しているのは半導体産業という状況なのですけれども、その半導体産業にも暗雲が立ち込め始めています。
11月8日、韓国・電子新聞は「日本政府が韓国に輸出される半導体製造用フッ化水素の一部を承認しないという事態が発生した……韓国の半導体業界に緊張が走っている」と伝えました。
フッ化水素(HF)は、半導体製造において、ウエハー薄膜の形状加工するエッチングという工程で必要不可欠な物質なのですけれども、半導体という微細加工で使用する為、金属イオンなどの不純物が殆ど含まれていない高品質なものが使用されます。
この高品質フッ化水素は森田化学工業やステラケミファなどの日本企業が独占生産しており、いわゆるキーパーツの一つとなっているのですね。
フッ化水素の輸出については、輸出令別表第3項(一)及び貨物等省令第2条(一)(別紙4:「貨物の例1」参照)に、軍用の毒性を有する化合物として濃度30パーセントを超えるものが記載されており、該当する場合は許可申請が必要と定められています。
半導体製造に使われる高品質フッ化水素の多くはこれに引っかかり、一種の「戦略物質」となっています。
今回、輸出にストップがかかった企業のフッ化水素は、サムスン電子やSKハイニックスなど韓国の半導体製造企業に供給される予定だったそうで、日本政府が輸出承認を拒否した理由は明らかになっていないのですけれども、一部には、例の新日鉄住金に韓国人元募集工への賠償を命じた韓国最高裁の判決への「報復措置」ではないかと見られているようです。
確かにその可能性は否定できませんし、韓国政府はむしろそちらを疑っているのではないかと思いますね。
このまま日本企業がフッ化水素の供給を中止すれば、韓国の半導体工場は稼働できなくなる可能性もあるという見方もあるようです。
もし、韓国の半導体工場がストップしてして、韓国経済を支えていた半導体産業が崩れてしまったら、今以上の経済的ダメージを受けることは避けられません。
今回のフッ化水素輸出停止措置の影響がどうみられているかは、来週以降のサムスン電子やSKハイニックスの株価の動きである程度分かるかもしれません。
文在寅大統領も大分自身の首が締まってきたように思いますね。
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