今日はこの話題です。



先日、パプアニューギニアで行われたAPECにて首脳宣言が採択を見送ったことが話題になりました。

アメリカのワシントン・ポストのコラムニストであるジョッシュ・ロジン氏は11月20日付の評論記事で、首脳宣言の採択に対する中国の妨害は、当局者が行ってきた数多くの「駄々っ子外交」の一つだと批判しました。

それによると、中国代表団はAPECの開幕から閉幕まで高圧的な態度を見せたり、常軌を逸する行動をしたようで、ロジン氏は「まるで自分の領土にいたかのように、高圧的な態度で全てを意のままに動かそうとしていた」と述べています。

例えば、中国当局関係者は、APEC開催中に各国メディアに対して、中国と太平洋地域各国との首脳会談の取材を禁止し、中国政府系メディアだけ取材を許可しました。これについて、アメリカ政府関係者は「記者たちが中国当局の横暴ぶりを報道する可能性があるからだ」との見解を示したそうです。

また、17日にアメリカのペンス副大統領と習近平国家主席は、ポートモレスビーの港に停泊している大型グルーズ船の上で講演を行ったのですけれども、習主席の演説の後、ペンス副大統領の演説が始まって5分もすると、メディアセンターのネットワークシステムに障害が発生し、センターに集まっていた記者たちはペンス副大統領の演説が聞こえなくなったそうです。そして演説が終わった後、何故か、ネットワーク障害が正常に戻ったのだそうです。

更には、「APEC首脳宣言採択されず」のエントリーで取り上げた、中国代表団メンバーが、パプアニューギニアのパト外相の執務室に強引に入ろうとしたこととか、APECの関連会議中、各国から批判されていると勘違いした中国当局者らは大声を出して反発していたことなどが紹介されています。

首脳宣言採択について、中国当局を除いた20カ国・地域の首脳がすべて、APECの首脳宣言の内容に賛同したにも関わらず、それに反対した中国当局者が会議中、長々と発言したことで、首脳宣言の採択は断念され、採択見送りが決まると、主会場の近くにある控室から、中国代表団の拍手が聞こえたと伝えています。

これらのことから、ロジン氏は、中国代表団の言動から「中国高官らがますます厚かましくて恥を恥とも思わなくなった」。「過剰に反応を示した中国共産党政権は明らかに、アメリカとその同盟国からの圧力を強く感じている」、「中国共産党政権がその言動によって、国際社会からさらに孤立化していくだろう」と結論づけています。

ただ、このロジン氏の見立て通りにいくのかどうかは予断を許しません。なぜなら、中国は経済力で太平洋諸国に深く食い込んでいるからです。

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現地取材をしたFNN北京支局長の高橋宏朋氏によると、パプアニューギニアの首都ポートモレスビー中心地では、「CHINA AID(中国援助)」という文字や漢字で大きく企業名やスローガンなどが書かれた建設中の道路や建物で溢れ、現地ガイドは「この道路は『中国港湾エンジニアリング』が建設したものだ」とか「この道路のおかげで我々の生活はとても良くなった」など中国企業が建設した道路を通るたびに称賛、感謝の言葉を口にし、「China is the best」とまで言っていたのだそうです。

高橋氏らが街の市場を歩くと東洋人は中国人に見えるようで、子供たちが「ニーハオ、ニーハオ」と声をかけてきたそうですから、相当食い込んでいることが分かります。

街の中心部には習近平主席を歓迎する巨大パネルが設けられ、五星紅旗で溢れました。こちらについてはパプアニューギニア政府が中国に対して、APEC開幕前までに中国の国旗を撤去するよう求めたのですけれども、中国側は撤去する代わりに紅い旗を設置しています。

また、パプアニューギニア議会につながる約1kmの6車線道路にも中国とパプアニューギニアの旗がズラリと並びました。APECなのにまるで中国以外の国などいないかのような歓迎ぶりです。

中国が打ち出している「一帯一路」の支援では、「いかなる政治的条件も付けない」ことを売りにしています。日米や西欧諸国の支援のように、自由、民主主義、人権など細かい注文を付けることはありません。権威主義的な政権にとって、迅速な意思決定と短期的な人気取りを考えれば、中国からの支援を拒む理由はありません。寧ろ、歓迎するでしょう。

一方、日本企業の投資は、対象国に質の高いインフラ供与と技術移転を行い、自社と対象国でウィンウィンの関係を作ろうと考えるという至極真っ当なものなのですけれども、実りを得るためにはそれなりに時間が必要です。権威主義的な政権からみれば、直ぐに結果がでないやり方だと敬遠する可能性が高い。

つまり、中国型の投資には即効性があり、それゆえに権威主義的な政権はそれを好み、同時にその政権を延命を手助けすることにも繋がるということです。

「一帯一路」がそれなりに太平洋諸国に拡がっていったのにはそれなりの理由がある訳です。

けれども、その結果、その国々が陥りつつあるのが「債務の罠」です。

トンガでは対外債務の約60%、バヌアツでは約半分が中国由来のもので、世界銀行の幹部は太平洋諸国の債務は「継続的に返済できる限界に近づいている」と警告しています。

トンガのポヒバ首相は、中国が国家資産を差し押さえる可能性について警戒していますし、既にスリランカは2015年までの10年間にわたったラジャパクサ政権が中国の資金で進めたインフラ整備で、多額の借金と金利が財政を圧迫しています。

最近になって、ようやく中国が仕掛ける債務の罠に他国が気づいてきた段階です。このまま債務の罠に飲みこまれてしまうのか、それとも、足抜けして真っ当な成長を続けていけるのか。まだまだインド・太平洋地域の趨勢は決まりません。
 

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