昨日の続きです。



11月23日、アジア太平洋経済協力会議(APEC)は、採択を断念した首脳会議に代わる議長声明を5日遅れで公表しました。

マスコミ報道によると、これまでの首脳宣言で恒例として盛り込んでいた「保護主義と貿易をゆがめる手段と闘う」という記述は入らなかったようです。

外務省は、その議長声明のポイントを公表していますけれども、確かに「保護主義と貿易をゆがめる手段と闘う」に類する表現はありません。けれども、「WTO の機能改善に向け協働」という表現があります。

首脳声明が採択できなかった原因について、アメリカは中国が首脳宣言に「不平等貿易慣行」に関する文言を入れることに反対したためだと述べ、一方、中国はアメリカがWTO批判の一文を盛り込もうとしたから採択できなかったと主張したそうなのですけれども、議長声明に「WTO の機能改善に向け協働」という内容が入ったということは、ややアメリカの主張が認められた感があります。

昨日のエントリーでは中国がAPECでみせた「駄々っ子外交」ぶりについて触れましたけれども、やは中国は世界から一定の警戒心を持たれつつあるように思われます。

現実に、中国による「債務の罠」について、警戒の声が上がっているのもその証左の一つでしょう。

11月23日、河野太郎外相はイタリア・ローマで行われた国際会議の討論会で、中国の「一帯一路」構想について問われた河野外相は「いくつかの国はいわゆる『債務の罠』の中にある……それらの国の成長を助けるとは思わない。我々はとても注意深くいなければいけない」と苦言を呈しました。

ただ、その一方で、河野外相は「プロジェクトの透明性、財政健全性などが国際スタンダードに合えば、喜んで中国と協力する」と世界基準に則る限り歓迎する意向を示しています。

河野外相は昨年11月、平塚市での講演で、「一帯一路」について中国が国外で整備する港湾施設を巡り「オープンに誰でも使える形でやれば、世界経済に非常にメリットがある」と述べているのですけれども、それも踏まえた上での発言と思われます。ただ、河野外相は昨年、一帯一路のメリットも触れた際も「中国は時々、軍事拡大みたいなことをやる。メリハリをしっかり利かせる」とも述べています。

つまり、安倍政権は「一帯一路」に一定の警戒心を持ちつつも、完全に否定はしないというスタンスといっていいでしょう。

ただ、その両天秤ではないですけれども、日本がアメリカと中国の両方に繋がるスタンスをいつまでも取れるかどうかは分かりません。なぜなら、米中冷戦が本格化すれば、結局どちらの陣営につくか決めなければならなくなるからです。

ジャーナリストの長谷川幸洋氏は、これまでの米中対立の経緯が、当時の米ソ冷戦の展開と余りに似ていると指摘し、米中冷戦で、世界は「中華陣営」と「自由主義陣営」に分断されると述べています。

確かに、ジョージ・ケナンの「X論文」とマイケル・ピルズベリーの『China 2049』。チャーチルの「鉄のカーテン演説」と10月4日のペンス副大統領による中国批判演説。マーシャル・プランと、インド太平洋諸国に総額700億ドルの支援表明。と、当時のイベントにぴたりと符合するイベントが今回も起こっていることを考えると、長谷川氏の主張にも頷けるものがあります。

長谷川氏は、米ソ冷戦で実施されながら、米中冷戦では実現していない2つのエピソードに「トルーマン・ドクトリン」と「COCOMの創設」があると述べ、COCOMについては、輸出管理規制(EAR)に違反し「アメリカの安全保障を脅かした」という理由で、中国福建省の半導体メーカー晋華集成電路(JHICC)に対するアメリカ製部品の輸出規制を発表したことを指摘しています。

また、22日、ウォールストリート・ジャーナルは、アメリカ政府が日本やドイツなど同盟国に対し、中国の通信機器大手「ファーウェイ」の製品が使われている国の当局や通信会社に接触し、安全保障上のリスクがあるとして、使用中止を促していると報じています。

今年8月、「中国に容赦ないトランプ」のエントリーで、アメリカが中興通訊(ZTE)とファーウェイについて「中国情報機関と関連がある」と指摘し、これら2社の製品をアメリカ政府機関が使うことを禁止し、その製品を利用する企業との取引を制限することを決定していますけれども、この時日本も入札参加資格に厳格な基準を設け、条件を満たさない企業の参加を認めないようにする案などの検討を始めました。

あれから僅か数か月で、今度は使用中止の要請です。増々締め付けを厳しくしようという訳です。

今月末からブエノスアイレスで開かれるG20首脳会議とそれに合わせた米中首脳会談でどんな交渉が為され、何が決まるのか。今年最後の山場になりそうですね。
 

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