昨日の続きです。



今回の安倍総理ら訪中では日中首脳会談と並んで日中外相会談も行われました。

会談の内容はこちらで公開されていますけれども、河野外相は、中国の王毅国務委員兼外相に対し、尖閣諸島周辺海域の状況を取り上げつつ日中中間線の日本側に設置された海洋ブイの撤去等を強く求めました。

河野外相は、8月7日の日中外相会談で、王毅外相が「あなたの発言を聞いて、私たちは失望することになるかもしれないと思った。なぜなら、あなたがアメリカ人が与えた任務を遂行しているように感じたからだ」と牽制発言するも、即座に「中国には大国としての振る舞い方を身につけていただく必要がある」と切り返したくらいですからね。これくらいの発言とて不自然に聞こえません。

王毅外相は直接回答しなかったそうですけれども、この手の話題には直ぐ反論しそうなものなのにしなかったということは、それだけ立場が弱くなっている証左かもしれません。

こうした中国に面と向かって要求したのは、河野外相だけではありません。安倍総理も同じです。

安倍総理は李克強首相との会談で中国内の人権問題、特にウイグル問題に言及。「中国国内の人権状況について日本を含む国際社会が注視している」と述べたそうです。それまで笑顔だった李克強首相は一転渋い表情になったそうですから、痛い所を突かれたのは間違いありません。

これまで何度も安倍総理を批判し続けてきた中国側が、今回いきなり手の平を返して歓迎姿勢に転換したのは、日米離反を狙っているからだという見方もありますけれども、人権問題については日米連携を取っているように見えます。逆にいえば、日本にとっても、人権問題についてアメリカと連携することは国益に合致しているという判断なのでしょう。

逆に経済については、必ずしもアメリカと共同歩調を取っている訳ではありませんけれども、日中通貨スワップについては、政府高官が「韓国を助けるための対韓スワップとは性質が違う。中国で活動する日本の企業保護のためだ」と述べていますから、これも国益を優先したということになります。

日中通貨スワップについては「対中ODA停止と日中通貨スワップ締結が意味するもの」のエントリーで、三菱東京UFJ銀行とみずほ銀行が人民元が調達できず、債務不履行に陥ることを防ぐと共に、民間企業の「セーフティーネット」を構築する狙いがあると述べましたけれども、やはりそういうことだったという訳です。

また、細かいことですけれども、安倍総理は習近平主席と李克強首相との離反ともいえずとも楔を打つかのような動きをしました。

安倍総理と李克強首相は、25日の非公式晩餐会、翌26日の昼食会も含め長時間を共にし、親密さをアピールしています。

今、中国は米中貿易戦争の影響を受け、中国国内で習近平主席への批判もあり、中国指導部内で李克強首相の影響力が相対的に高まっていると言われています。

習主席の中国軍を含む絶大な権力を相対的に弱めることが出来れば、それだけ脅威の度合いを小さくすることにも繋がります。その意味では、悪い手ではありません。ただ、あくまでもそれは補助的な手であって、本線ではない。

先日、アメリカ・戦略国際問題研究所シニアアドバイザーのエドワード・ルトワック氏が来日したのですけれども、彼に会った地政学者の奥山真司氏はルトワック氏が「すごいことになった……もうアメリカは共産党を潰すぞ」といったと明かしているのですね。

大きな流れでは米中新冷戦は確定しています。日本政府は、それをきちんと認識した上で、国家運営をしていただきたいと思いますね。
 

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